捧げ物×頂き物
□真っ直ぐライン
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その質問にひどく驚いた気もするし、すごく冷静に答えた気もする。
私の口から出たのは、簡潔な一言だった。
「空」
男の人が空を見上げる。
私も再び空に視線を投げかけると、飛行機雲がくにゃっと曲がり始めていた。
「すごく綺麗だったから」
「…ほんとだ」
(…もう形が崩れてるのに、)
目の前の人はなぞるように飛行機雲を見つめた後、私に笑顔を向けた。
「飛行機雲、発見!」
(なんて綺麗に、笑うんだろう?)
思わず見とれてしまうくらい、その笑顔が綺麗で。
はっと意識を取り戻したのは、ブレザーの中の携帯電話が鳴り響いたから。
「…やば」
友達からのメールと時間を見やる。
入学式開始まで、あと15分。
「それじゃあ、私は行くので」
二度目の私の言葉は、彼に引き止められなかった。
「うん」
彼は歩きだす気配もなく、私に向かってゆっくりと手を振った。
微笑んでから速足で歩きはじめると、彼の言葉が後ろから飛んできた。
「またね!」
振り返り、手を振る。
あまりにも彼が楽しそうに笑うから、私もつられて笑った。
(…変な人)
歩く速度を上げて、目的地を目指す。
さすがに、入学式から遅刻は嫌だった。