捧げ物×頂き物

□真っ直ぐライン
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 空がすごく好きだった。
明確な理由はなくても、いつも見上げてしまうくらい惹かれていた。
 あの日も、そう、快晴。



 すっきりと澄んだ空の下、私は新しい通学路を歩く。
駅から徒歩10分程の距離は決して近くはないけれど、ゆっくり考え事をするには申し分ない。

(…飛行機雲)

 真っ青な空のキャンバスに描かれた、一本の白いライン。
それを辿るように、空を見上げながら歩く。

 足元は見なかった。
私が見ていたのは、空だけ。

 だから道端にしゃがみ込んでいる誰かにも気付かなかった。
「ぐへっ」という声に、やっと目線を下げる。

「…え?」
「痛っ…」

 どうやら脇腹を押さえてしゃがみ込んでいる人が漏らした声らしい。
 原因は、一つ。

「ごめんなさい…もしかして、私、蹴っちゃいました?」

 睨まれる。
かと思いきや、その人は私を見上げながら笑った。

「そのもしかして、だけど。
 大丈夫、しゃがみ込んでた俺が悪いんだし」

 あーぁ、と彼が膝を叩いて立ち上がる。
オシャレなダメージジーンズから、小麦色の肌が少しだけ見えていた。

「具合、悪いんですか」
「あ?
 いや違う違う、これ見てた」

 そう言って男の人は地面の一点を指差した。
男の人がしゃがみ込んでいた位置に座り、顔を近づけてみる。

 たんぽぽが、咲いていた。

「もう、そんな季節なんですね」
「春だからな。
 新学期も始まったし」

 彼が伸びをする。
んーっというその声に合わせながら私は立ち上がった。
 そろそろ行かないと、入学式が始まってしまう。

「それじゃあ、」

 軽く会釈をすると、彼に腕を掴まれた。
その拍子に、彼の顔をまじまじと見つめた。

 目鼻立ちのくっきりして、整った顔。
程よく焼けた小麦色の肌の上で真剣な瞳が私を見ていた。

「君は、何を見てたの?」

 
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