君にだけ響く音
□Episode6 信じる
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その日は、見事なまでの曇天だった。
分厚い雲が空を覆い、一筋の光さえも通さないような暗い空。
そう、まるで私達の心のように。
そして、小さな希望にさえ必死に縋ろうとした私たちを、まるで嘲笑うかのように。
「…あ」
昇降口に入り、自分のクラスの下駄箱に向かうと見知った背中が目に入った。
あやねと、ちづちゃん。
なんて声をかければいいのかわからず、唇を噛み締める。
二人の背中はいつも通りに見えても、きっと、昨日の話を忘れてるわけがない。
――『貞子!?』
彼女たちの言葉を聞いて、二人とも大きく目を見開いた。
次いであっはっはと涙を浮かべて笑うちづちゃんとあやねに、噂をしていた女の子二人は一瞬怯んだように見えた。
それはまるで奇妙なものを見たかのようだった。
私も思わず苦笑した。
黒沼さんが、そんな噂を流せる気がしない。
あんなに嬉しそうに二人と話す、黒沼さんの表情を見てきたんだから。
でも。
3人だけの帰り道、誰ともわからないため息が幾つも落ちた。
なんだか騒ぐ気にもなれなくて、結局ラーメンにも行かないで帰った。
本当に?
貞子が噂に関連してることってありえるの…?
小さくとも確かに疑問を抱いて。
「―――准那?」
「にょっ!?」
いきなり肩を叩かれ、思わず奇声をあげる。
遅いとわかってはいるけれど、口を押さえつつ振り返る。
「『にょ』って…」
「…わ、忘れて…ください…」
そこには苦笑した風早君が立っていた。
おはよう、と挨拶を交わしたあと、並んで歩き出す。
二人で並んで歩いたことは以前もあったけれど、こんな風に学校で歩くのは初めてで。
なんだか、少し緊張する。
何思ってるんだろうと自嘲しつつも、やっぱりちょっと嬉しかった。
「…何かあった?」
「え?」
「さっき。
しばらく見てたんだけど、准那下駄箱とにらめっこしたまま動かないんだもん」
かあっと一瞬にして頬が熱くなる。
「見、てたの」と呟くのが精一杯だった。
一人百面相をしていたかもしれないところを見られるなんて恥ずかしすぎる。
「うん、面白かったから」
「おも…」
「あっ違う違う!
准那の顔が面白かったわけじゃなくて!」
「…顔が変なのは知ってる」
「いやだから違うって!」
必死に否定してくる風早君がなんだか可愛くて、思わず笑った。
変なの。
最近、風早の前では自然に笑えることが多いみたい。
「…なんか、可愛かったから見てたんだよ!」
「え」
「あーもう言わせんな!」
うわあっとよくわからない叫び声をあげて髪を掻きむしる風早君の姿が、やっぱりなんだか可愛かった。