君にだけ響く音
□Episode5 新学期
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じとじとと、空から絶え間無く雨が落ちてくる。
それが妙に落ち着くから、雨は嫌いじゃない。
でも昨晩からこうも降り続けられると、なんとなく切なくなってきたりもする。
私は一つため息をつくと、再び学校に向かって歩きだした。
「あ、愛おはよー!」
「おはよ、愛」
教室には既にちづちゃんとあやねが来ていた。
自分の席に荷物を置くと、二人の元に向かう。
夏休みも終わり、ついに始まった二学期。
だからって今までと何かが変わるわけではないけれど、当たり前のように毎日みんなと会える。
それはやっぱり嬉しい。
「愛、今日英語の予習したっ?
あたし当たるんだよ!」
「…した、けど」
ちづちゃんに何かを言われる前に先にノートを差し出す。
あまり英語に自信はないんだけどな。
「ありがとーっ…って、なにあの集団」
ちづちゃんが指差す方向を見ると、わらわらと教室のドアの辺りに人が群がっていた。
「風早濡れすぎだべっ!」
なんて声も聞こえてくる。
「…すごい集客力」
「客じゃないけど、ねえ。
しかし風早なんであんなに濡れてるんだ…?」
あやねまで驚いたように言うから、集団の方をまじまじと見てみる。
今だに大勢の人っていうのは苦手だから、盗み見るようにこっそりと。
そこにちま風早君は髪がペたりと肌に張り付いていて、『水被ってきました』状態。
濡れたワイシャツが肩に張り付いているもんだから腕のラインが綺麗に写し出されていて、思わずドキリとした。
変態みたい、と思いつつも凝視するのは止められない。
「…あ」
風早君が黒沼さんに話しかけに行ったのを見て、黒沼さんも濡れているのに気付いた。
長い髪が力無く垂れている。
「愛、どうかした?」
早速私のノートを写している、ちづちゃんが見上げてくる。
えっとね、と前置きしてから口を開こうとすると、風早君の声が「吉田!」とちづちゃんの名を呼んだ。
「吉田置きジャージない!?」
「ん、あるけど!」
ちづちゃんがロッカーを漁るのを後ろから見ながら、私とあやねは絶句した。