君にだけ響く音
□Episode2 一歩
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「准那おはよっ」
音楽を聞きながら閉じていた目を開ける。
ぱっと声の主を見ると、彼はにっこり笑っていた。
いくらなんでも、無視できないよ、この笑顔。
「…おは、よう」
「おでこ、大丈夫だった?」
その言葉に、反射的に額を触る。
他と違ってこんもりと膨れ上がっている箇所があって、思わず顔をしかめた。
「…こぶできた」
「まじ!お大事になっ」
うん、と小さく頷くと、風早君は友達に呼ばれたのか席を離れていった。
そして、また一人で音楽を聞いて目を閉じる。
他の子に、話しかける勇気はない。
黒髪が綺麗な女の子が「お、おはよー…」って声をかけてくれたけど、一瞬目を開けて「おはよ」って言ってからまた眠りに落ちた。
無理無理。
知らない子とは話せないって。
自分で知ろうとしなきゃ何も変わらないことくらいわかってるけど、その一歩を踏み出す勇気はない。
だから、一人でいい。
そう思ったあの朝から一週間。
私は今も、一人でいる。
***
「やのちーん腹減った!」
「そうねー。購買行く?」
「ラーメン食べたい!ラーメン!」
一人でラーメン食べたいー!と叫ぶちづを見て呆れつつ、財布を取り出す。
どうせ弁当忘れたし。
お昼抜きはさすがにキツい。
「あたし購買行ってくるけど」
「なぬっあたしも行く!
この際パンでも良い!」
二人で購買まで歩く。
ちづと出会ってまだ一週間とちょっとくらいだけど、すっかりちづの隣は居心地が良くなってきていた。
「もうだいぶグループになったよね」