君にだけ響く音
□Episode1 入学式
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カーテンをまとめると、憎らしいくらい澄み切った青空が広がっていた。
私の気持ちと正反対で、思わずため息をついた。
「高校生…かあ…」
中学時代が終わったのが悲しいとか、そういうわけではない。
ただ、どれくらい『自分』でいられる居場所を見つけられるか不安。
まだ理由はあるけど、目下の障害は多分それだろう。
「愛ー早く降りてきなさいー」
リビングからお母さんが呼ぶ声がする。
「…はあい」
小さく返事をしてから、もう一度ため息をついた。
「…早いんだけど」
「何言ってるの。
入学式なんて早く言った方が無難に決まってるじゃない」
とん、と私の前に味噌汁を起きながら「それに」と続ける。
「人見知りの愛が、皆よりあとに教室に入って話が出来るわけないじゃない」
さすがです、お母さん。
よくわかっていらっしゃる。
「…好きで、人見知りなわけじゃない」
ふて腐れてみるけど、図星なだけに何も言い返せなかった。
「最初が肝心なのよ。
さっさとご飯食べて、
さっさと行きなさい!」
お母さんの言い方には結構凄まじいものがあった。
逆らえない。
いくら人見知りでも、いくら高校生になるのが憂鬱でも。
口が裂けても「行きたくない」等とは言えず、大人しく朝ごはんに手を伸ばした。