君にだけ響く音
□Prologue
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新しく買ったばかりのケータイが鳴る。
まだ着信音を設定していないから、あの独特な機械音で。
ぎこちなくケータイを開き、通話ボタンを押す。
「…もしもし」
『あ、愛?今何してた?』
「説明書読んでた」
『ケータイ買い換えたんだっけ』
「…あのままじゃ使えないから」
ちょっとした沈黙が流れる。
意地悪な言い方しちゃったかな、なんて思ってももう後の祭りだ。
案の定、小学生のときから仲が良い美樹は黙ってしまう。
その沈黙を破るなんて考えもせず、私は壁にかかった新しい制服を見る。
明日から、あれを着るのだ。
北幌高校の、ブレザーを。
「…明日」
『え?』
「入学式だね」
あぁ、ってちょっとホッとしたような声がスピーカーから伝わってくる。
美樹は優しいから、決して適当な言葉は言わない。
そんな優しさから作り出された沈黙は、私は嫌いじゃない。
あくまでも私は、って言い方をしたら二度目の意地悪になってしまうけど。
『楽しみだねえ、入学』
「…そう?」
『うん。新しい友達出来るかな』
新しい、友達か。