君にだけ響く音
□Episode7 土曜の夜
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特にすることもなくベットに寝転んで雑誌をめくっていたある土曜日。
定期考査も終わったばかりでさすがに勉強する気にもなれず、ごろごろして過ごしていた。
窓から差し込んでくる日差しが少しずつ翳ってきていて、最初に寝転んだ時からちょっと時間が経っているのがわかる。
こんな風に無駄に時間を過ごすのもたまには悪くない、と思う。
そんなゆったりした時間を割くように、ケータイが大きな音で鳴った。
『This could be something big』、私が中学生の時に部活の定期公演演奏した曲。
「…もしもし?」
『あー愛ー!?今暇ー!?』
「暇、だけど…ちづちゃんどうしたの?」
電話越しにでもわかる、元気なちづちゃんの声。
なんだかわくわくしているような、いつもより明るい声だった。
『じゃあさ、出てこれない?ラーメン食べに行こう!』
***
「あ、愛こっちこっちー!」
大きく手を振っているちづちゃんの元へ走っていくと、「急がなくていいよー」という落ち着いた声。
「あーちゃんも、来てたの?」
「まあね、千鶴に無理矢理連れてこられて」
「無理矢理ってひどくない!?
それよりさ、愛ほら見て!」
じゃじゃーん!という効果音つきで私の目の前に押し出されたのは、私服姿の黒沼さん。
私服姿、初めて見た…と感動していると、黒沼さんが勢いよく頭を下げた。
「准那さんっこっこんにちわ!」
「こんにちは…?黒沼さんもちづちゃんに無理矢理連れてこられたの?」
「そっそんな滅相もないです!吉田さんが声をかけてくれて」
「そーだよーっ愛までひどいなあ」
「…で、どこに行くの?」
拗ねたように頬を膨らませるちづちゃんと、それを見て呆れたようにため息をつくあやね、オロオロしている黒沼さんを順番に見たあとに問いかける。
するとちづちゃんはすごく嬉しそうに笑ったと、高らかに宣言した。
「では、前回のリベンジマッチに行こう!」
3人と待ち合わせたのは、出身中学校から徒歩5分ほど、そして私の家からは徒歩10分ちょっと程の距離にある大きな公園。
そこから4人で私の家とは逆方向に歩き続けること、数分。
「ちづちゃん、もしかして…」
「ん?愛知ってる?
あたしここのラーメンが一番おいしいと思うんだよね!」
さあ行くよーっという楽しそうな声をあげたちづちゃんに続いて、黒沼さんが暖簾をくぐる。
そしてそのあとに続こうとしたあやねが、止まったままの私を見て不思議そうに首を傾げた。
「愛、どうかした?」
「うう、ん…なんでも、ないんだけど…」
「そ?早く行かないと、千鶴が騒ぐわよ」
「そうだよね…」
わかってはいるのだけど。
それに、別にやましい事をしに来たわけでもないのだけれど。
足を進めるのが、なんとなく、怖い。