ありふれた物語=小さな奇跡=
□Train =第三章 終着駅=
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「また明日」
その言葉を期待して行ったけれど、いつもの電車に、彼の姿はなかった。
やっぱりね。
そう呟いた自分の声は、予想外に悲しそうだった。
教室のドアを開けると、まだクラスメートは2、3人しか来ていなかった。
いつものこと。
そう思って自席に着くと、朝から元気なあの声が降ってきた。
「おはよー梓っ」
え、と自分の耳を疑う。
恐る恐る顔を上げると、この時間にいるはずもない人の見慣れた笑顔があった。
「…勇馬、今日早いね」
「まあなっ。梓に聞きたいことあって」
「…聞きたいこと?」
まさかと思いながら、首を傾げる。
昨日話したこととの出来事を考えれば、わかってしまうかもしれないけど。
勇馬の勘がそこまで冴えていないことを願いつつ、ブレザーのポケットから生徒手帳を取り出して鞄にしまう。
なぜか、勇馬はその行動を凝視していた。
「…生徒手帳、ね」
勇馬が小さく何かを呟いていたけれど、私にはよく聞き取れなかった。
なに、と聞き返そうとした瞬間、勇馬が私の腕をつかんだ。
「え、なに…?」
「梓」
ひどく真剣な勇馬の瞳の中に、私が映っている。
『彼』と私が以前話したのと、同じ距離。
思わず鼓動が高鳴ったけど,慌てて顔を背けることでごまかす。
「梓」
勇馬の声が、もう一度私の名を呼ぶ。
恐る恐る顔をあげると、何かをこらえるような顔をしながら、勇馬ははっきりと呟いた。
「一緒に来て」