Short dream(DB、企画)

□7年目の成長
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閑静な住宅街に、少年の熱い掛け声が響き渡る。



「シッ、シッ、極限にっトレーニングだああー!!!」

「了平くん、周りの家まで声が響いてるよ」



並中の制服に身を包んだ私たちは、周囲からどう見えるのだろう。
もう少し大人になったら眉を顰められそうな行為でも、まだ許される年齢だろうか。

現在中学二年生の私たちの7年前と言えば、小学一年生だ。
了平くんは、あの頃から極限少年だった。小学校の登下校の道は常にランニング(+シャドーボクシング)。

幼なじみである私は、おばさんや(了平くんとは似ても似つかない)了平くんの妹の京子から頼まれていたこともあり、
いつも暴走気味で、気づけばどこかへ走り出している了平くんを追いかけては、
なんとか引きずって連れ帰るというのが常だった。

……いや、過去形ではない。
中学に入って更に進級し、二年生となった現在も了平くんは変わらず極限のままである。
むしろ、ボクシング部の主将になったことによって更に磨きがかかっている。

体格差も体力差もそんなになかった小学生の時とは違う。
自転車で走る私とランニングする了平くんが並走できるくらいだ。

帰宅部だが図書室で残っていた私は、部活終わりの了平くんと、夕焼けのきれいな帰路を辿っていた。
小学生のころからの習慣はなかなかなくならず、下校時間が重なればよく一緒に帰っている。

いつもと違うのは、自転車を修理に出している私が、今日は徒歩で了平くんの隣を歩いているということだ。
教室でもたまに話すが、じっとしていられない了平くんはいつの間にかどこかへ行ってしまう。
先ほど部活でさんざんやってきたばかりだろうに、相変わらずシャドーボクシングしている了平くん。
横を歩いていると、彼の伸びた身長だとか、たくましくなった体つきだとか、
今までそう気にかけていなかった幼なじみの成長を実感した。

変わらないものと、変わったもの。



「おおっ!あれはプラチナムなボクシングセンスを持った沢田ツナではないかっ!!」

「沢田ツナって…」



確か、下の学年に“ダメツナ”と呼ばれている男の子がいると聞いたことがある。
…そして、“沢田ツナ”とは、こないだ了平くんがボクシング部に勧誘したという少年だ。
彼からもらった素晴らしいパンチに、了平くんはすっかり惚れ込んでしまったのだそうだ。
以来、彼の姿を見かけるたび、いやもう自分から教室に押しかけては、
ボクシング部への勧誘をしているのだという。

沢田くんはもう家に帰って着替えたのであろう私服姿で、私たちとは反対方向へ歩いているようだった。
遠目からでも沢田くんと分かるのは、了平くんの野生の勘か、それとも沢田くんの独特な反重力ヘアーか…。



「待て沢田!ボクシング部に入れー!!!」



沢田くんを見て、いてもたってもいられなくなったのだろう。
了平くんは、うずうずとする時間ももったいないといわんばかりに駆け出していく。

了平くんを追いかけて連れ帰るのは私の役目だ。
でも、昔とは違い、男女差がはっきりした現在、私はもう自分の足で了平くんに追いつくことはできない。

一足遅れて駆け出しても、その背中は遠くなるばかりだ。
いつもなら自転車のペダルをこいで、また隣を走ることができるのに。



「了平くん待って…っ」



もどかしい思いで足を動かしていると、遠くなりかけていた了平くんの背中が振り返り、
今度はだんだん近づいてくる。



「すまん!名前は今日自転車じゃなかったのだったな!
名前はオレが歩いていても走っていてもいつも隣にいてくれるからな、つい何も考えずに走り出してしまった!
だがオレは沢田を追いたい。行くぞ名前!」

「わっ」



マシンガントークを終えるや否や、がしっと私の手首をつかむと、再び走り出す了平くん。
私は自分よりも足の速い人に腕をひかれる形であるが、しっかりと引かれていることによって足はもつれることはない。
自分一人ではできない、風を切る感覚を体験することになった。

ずっと見続けてきた背中も、今では見上げるほどになってしまったし、自分の足ではもう追いつくことはできない。
了平くんの、身体面の成長は先ほどからひしひしと思い知らされている。

でも、それだけではなかったらしい。
昔なら、私のことなど気にせずに走って行ってしまっていただろうに。
変わらないまっすぐな極限魂をもった了平くんだけど、彼の内面的な成長もしみじみと感じた、夕暮れの帰り道。







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7周年ありがとうございます!

・成長…人や動植物が育って大きくなること。大人になること。

15/02/18 春樹


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