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□EPISODE4 レクイエム[後編]
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【第五十一話】
Dじゃない
銃声を聞いてブルックの演奏が止まった。それに続いてイコことサーズも起き上がらない。銃を撃ったDは狂ったように笑い続ける。観客はただならぬ気配を感じてざわめき始めた。
……ザワザワ…
「っ、く……」
サーズの手がピクリと動いた。それに1番早く気付いたのは、フォッグ役のバギーだった。
「ってめぇ!今撃たれたんじゃなかったか!?;」
途端に観客のざわめきが止んだ。サーズは胸元を押さえ、じっとDだけを睨みつけながら答えた。返事はするものの、バギーは視野にないようだった。
「…掠った…」
「嘘つけェ!!じゃあなんで倒れて…」
「てめェ。…そのまま死ねばよかったのによ…」
バギーの言葉をDが遮る。しゃがみ込んだサーズに、コートを揺らしながら歩み寄る。そのまま相手を見下した後、再び銃口を向けた。
サーズはその眼の正体を知っていた。
正確には覚えていた−
−−−
一方、舞台裏でも同じだった。演奏を止めたブルックも、先程まで出ていた部下達も、脚本を作ったウソップでさえ動揺は隠せなかった。
こんなこと脚本にはないと。
Dの様子がおかしいと。
しかし、誰も動こうとはしなかった。この予測出来なかった事態に、どう対応していいのか分からないのだ。
「どうなってんだァ…?あいつ、どうかしちまったぞ…;」
「しかもあれは実弾じゃねェか…!…やべェサーズさんが……!;」
「待て同士!今おれたちが出りゃ事故だとバレる!!」
「ならどうするんだよ!早くしないとサーズさんが…!」
ピキッ……!
突然、軋むはずのない床が大きな軋む音を起てた。
ん?と全員が息を呑む一瞬の間に、事は起きた。
ビリビリビリ……!!!
「ッ……!」
ドサァっ…
「おいどうし…ッぁア…!;」
ドサッ…!
舞台裏にいる人間が次々と泡を吹いて倒れていく。
「ぅあ………ッ」
ドサッ。
「カバジ…」
「あぁ、間違いなく覇気だ。」
「Dはどうしちまったんだろうね…」
「なに…おれ達は見守ってやりゃあいい。あいつらの目を見ろ、二人の戦いって顔してるぜ」
モージとカバジが言葉を交わす。彼等以外に生き残った者はほんの数名。アルビダにブルック、そして部下達が4人。ウソップは気絶したうちの一人だった。
「っサーズさん……!」
生き残ったブルックはピアノの椅子から立ち上がり、そっとカーテンからステージを覗いた。
見ると観客達は全員気絶している。が、ステージにいたバギーとサーズは無事だった。
ブルックは彼等に近づきたかった。近づけるものなら近づきたかったが、サーズと目が合い来るなと目配せさせられたのだ。カバジ達はこの雰囲気を自然と読み取っていた。
ステージにいる頭領バギーは完全に無い物とされている。
ブルックは二人の睨み合いの意味を知っていた。
この事態の真相を知る、たった一人の人間だった。
「……あぁぁ………!」
ブルックは自分の顔を手で覆い隠し崩れ落ちた。それに気付いた一人の部下がそっと話し掛ける。
「ガイコツ。あんたどうしたんだ……?」
「私……サーズさんになんてことを…!!」
ブルックの悲嘆の理由は、サーズ以外に誰も知らない。
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