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小説置場
書き忘れたから注意しとくけど
二次創作なら何の二次創作か、オリジナル小説ならどういう小説なのかを最初に書いてもらえると助かる。

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01/07(Thu) 23:25
朧月
獅子

輝夜のちょっとシリアスな話。

921T
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01/07(Thu) 23:27
獅子

それはある満月の夜の事――



その夜には一人の男が居た。
何でも永琳の患者らしいけど、詳しい事は知らない。
「えっ?物語を聞かせてくれないかって?」
唐突に言われて面食らった。今日は暑くてなかなか寝れないとのことだった。
普段なら断っただろう。けれど、その夜は悪い気はしなかった。



――今日は暑いですね。
「ええ。夏も盛りで少し暑いわね。冷たいお酒でも出させましょうか。
イナバー?」
直ぐにイナバは駆けつけ、用件を理解すると酒蔵に向かった。
程よくして日本酒が運ばれる。
「今日はどんな物語がお望みかしら?」
――では。輝夜様の昔話をお聞き出来ますか?
「私の昔話?
締まりの悪いつまらない話でもよければひとつ……」





――むかしむかし……
月の使者から追われるまま各地を転々としていた私達。
地上で言う飛鳥時代に始まった逃亡劇は次の平安時代を迎えていた。
そんな暮らしのままで迎えた春のある日、私達はある男と出会ったの――





「御伽話じゃない、私の昔話なんだもの。
酒の肴には不味いい話でも少しは相手を酔わせないと私も上手に聞かせてあげられないわ」
――少し飲みましょうか?
「そうね。じゃあ、飲みましょう」
私は彼の酒を注ぎ、彼は私の酒を注ぐ。
久し振りだわ、誰かとこんな飲み方をするなんて。
――ありがとうございます。
「ふう、良い風が吹いてきたわ。
蚊遣りの煙は目に染みないかしら?」
――いえいえ。
それじゃあ、飲み始めましょう。
「そうね、飲みましょう。
先ずは竹の葉の擦れる音を肴に一献」
サアッと一陣の風が吹き去る。
月は朧。
霞んで見えるは白。
うん、良い夜ね。
「竹林を抜ける夜風が酒気を払ってくれる。
夜が飲めと勧めているのかしらね」
――かもしれませんね。良い夜だ。
「そうそう、話の続きね――





「――永琳、疲れたわ。そろそろ休みたい」
かれこれ2日も飲まず食わず。それにずっと歩いて肉体的にも精神的にも辛い。
「……そうね。
どこかで休みましょう」
少し歩いて、私の目にあるものが映った。

921T
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01/07(Thu) 23:29
獅子

桜。
とても大きくて、綺麗な桃色の花びらが夕日の光に照らされていて、幻想的。

「あの下、あの桜の下で休みたい」
「輝夜がそう言うなら」
私達はその大木の下でいつしか寝てしまった。
よっぽど疲れていたのね。

そんな私達を起こした声。
それがあの男だった。

「……し、もし?」

「……?」
「何……?」
「おっ、生きてるみたいだな?
いやー、良かった良かった」
私の目の前にいたのは若い青年のような男だった。
多分青年で間違いない。声や、動きが年相応の感じがするもの。
「てっきりこんなとこで寝てるからよ、死んでるのかと思ったぜ」
「?」
「ま、いいや。
そろそろ日も落ちるしウチに泊まらないか?」
「いえ、お気遣いは……」
「いいじゃない、折角のお言葉なんですもの。甘えさせてもらいましょう」
「そうかい?
じゃあ追いてきな」
男は踵を返して夕日の方に歩いていく。

「良かったの輝夜?」
「何が?」
「あまり距離も稼げてないし、それに……」
「ええ、何か様子がおかしいわね」
男は人間の気配にしては、何か奇妙だった。
注意しなければ気配を探る事さえ出来ないなんて。
静かで冷たい、そんな気配。

「まあ、いいんじゃない?敵では無いみたいだしね」
「そうだけど……」
「早くしないと置いて行かれるわよ?」
そう言って私達は男の方へ駆けて行った――





「今日はなんだか寂しい夜ね……」
――え?
「いいえ、何でも無いわ。
話を続けましょう――




男の家は案外素朴な家だった。雰囲気からしてもっとお洒落な家だと思ったんだけどね。

「何もないけど、とりあえず休んでくれよ」
「一人なの?」
この家は一人でいるのには寂しい家だ。
何故かは分からないけど、この家は男以外に誰かいたのでしょうね。
「あー、今は一人だ」
「今は、と言いますと?」
「去年女房が虎狼痢(コレラ)で死んだ。呆気なく、突然死んだんだ」
「すみません、余計な事を……」

921T
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01/07(Thu) 23:31
獅子

そう言う事だったのね。
確かに居た、という気配はなんとなくするけど、全く帰ってきた形跡もない。他にも違和感はあるけど……。
「いいってことよ。
生き物は皆平等に死を迎える。遅かれ早かれそれだけは確実なんだ」
「……そうね」

何でもない、ただの会話だけど、私には少しその考えが羨ましかった。
「ではここで一句。
風さそふ花のゆくへは知らねども
惜しむ心は身にとまりけり」
「上手ですね」
「ありがとさん。
昔、よく詠んでいたからさ。
女房が好きだったんだ」
「素敵。
他には何かないかしら?」
「直ぐには思いつかねえなぁ。
それに直ぐに思いつくのもどうかと思うぜ?」
「何故?」
「いいかい、嬢ちゃん。
歌ってのはな、何かを見たり、聞いたり、触れたりして感じるものを歌にするんだよ。
その時その時の感情、風景、喜怒哀楽……
全てが揃わなきゃ良い歌は作れないし、仮に作れたとしてもそれは偽物の歌だ。
やっぱりそんなもんは心に響かねえな」
「ふぅん……」
なんだかよく分からないわ。
所詮、生き方が違うからかもしれないわね。
「ちょっと難しかったか。
ま、一瞬一瞬を大切にしろってことよ。
失った時間は取り戻せないし、未来に安易な期待は出来ない。
だからこの現在(いま)を必死に生き抜くんだ」
「なるほど……。
参考になりました」
永琳は本当に参考になったのかしら?何でもかんでもいい人ぶるのは駄目だと思うけど。
「なんかしみったれた話になっちまった。
そろそろ寝るか!」





男が寝てしまった後、私は少し考えてみることにした。
死。
私にはあまり馴染みのない事だけど、やっぱりとても怖いんじゃないかしら。
そして同時に悲しいのかも。
「はぁ……、性に合わないわ」
いくら考えても答えなんか出るはずもない。
「……ねえ、永琳」
「なあに、輝夜?」
「……死、ってなにかしら……?」
「そうね……。
強いて言うなら、
強くなるための試練かもしれないわね」
「試練?」
「そう、試練。
人は一人じゃ生きていけないわ。必ず誰かの支えが必要になる。
でもね、一人で立ち上がる事は出来る」

921T
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01/07(Thu) 23:33
獅子

「どう言う意味?」
「立ち上がるって言うのは、自分の意思で前に進もうって事。
夢、希望、高み……
いろいろあるけど、結局叶える為には自分でなんとかしないといけないでしょ?
それには周りの人に手伝ってもらう必要が少なからずある。
でも手伝ってもらうばかりじゃ先に進めない。
だから死、って言うのは試練じゃないかしら。
自分の意思で進んで行け、人に頼るな、って」
「そう、なのかな……」
「私にも分からないけどね。
いいえ、多分これから先ずっと分からないと思うわ」
「なるほどね……」
試練、か……。
「そう言うことなのか……。
やっと分かった。
それを聞くためだけにここに止まって(とどまって)いたのかも、な」
振り向くと男が起きていた。
「貴方……」
様子がおかしい。
いや、薄々は感じていた。
これが答え。
男は死んでいたのね。
「お察しの通りもうオレは死んでいる。女房を追って自害したんだよ。
けど、生きていた意味を知りたかった。
どうして生まれたのか?
死ぬというのに何故生きようとするのか?

それが分かったような気がする」
身体は光沢に包まれ、気配が薄くなっている。
もう、逝ってしまうみたい。
「誰かの為に生き、誰かの為に死ぬ。
それが『人間』かもしれない、な」
「ええ。
貴方の歌は素晴らしかった。とっても心に響いたわ」
「そう、か……。
一つ、頼みがあるんだ――」
男は消えそうなのを必死に耐え抜いて私達に伝えた――





「ここ、ね」
あったわ。これがあの男の死体。
死体はもう古くて、白骨化している。でも、なんだか悲しそうな顔ね。
「埋めにいきましょ」
「そうね。頼まれたものね」



男の願いは至極簡単なものだった。
桜の木の下に埋めて欲しい、とのこと。
――女房もそこに埋めてやったんだ。
死んだ後ぐらい一緒にいたいんだ――
「……春風の花を散らすとみる夢は
さめても胸の騒ぐなりけり――」
いい歌。
胸、と言うか心に響くってこう言うことなのね……。
男の辞世の句と言うのもどうかと思うけど……。

「それじゃあね。
さようなら――」

921T
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