神父と悪魔

□退屈な午後。
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この男――ヴェドリックにとって、穏やかな時間とは要するに暇な時間に値する。
ゆったりとしたソファーに怠惰に寝転び、猫のように欠伸をする。

退魔の依頼もなければ、祈りの時間でもない。
まだ子供達は勉学に勤しんでいる時間だし、更には今日に限って騒がしい奴等は出払っている。

「ヴィヴィ、ヴィヴィ、…ヴェドリック?」

…この、メイド以外は。

「なんだ、アンアン」
「ヴィヴィったら、さっきからまるで襲って下さいと言わんばかりの格好なんだもの」

気になって仕方ないわ、と頬を膨らますアン、もといアンシャール。
いくら見た目が美人であろうと、中身はヴェドリックに背格好がよく似た悪魔である。

「間違っても乗っかるんじゃねぇぞ」
「やん、ヴィヴィったらそんな乗っかるだなんて!」
「添い寝くらいならさせてやらん事もない」

親父服の襟元を緩め、また欠伸をする。
常時自分を狙う悪魔が側にいては、おちおちうたた寝もしていられない。
起きたらペロリと頂かれた後でした、…なんて全くもって笑えない話だ。

「…暇だ」
「寝ていればいいじゃない。膝枕は必要?」
「それは中々良さそうな話だが…どうにも首を痛めそうだな」
「夢がないわねぇ。白くて柔らかい女の太ももの、一体何がご不満なのかしら」

肩を竦めるアンシャールを見なかった事にして、ヴェドリックはまた欠伸をした。
なんだか今日は異常に眠い。

「寝ればいいじゃないの、私は大人しーくお菓子を作っていればいいんでしょ」
「…そうだ、今日はパイがいい」
「ちょうどいいわ、チェリーパイを作っておくから、ヴィヴィはおやすみ」

そう言ってアンシャールはどこから出したのか、薄手のブランケットをヴェドリックの腹にかけた。
それに応じる余裕もなく、ヴェドリックは自分が眠りに落ちるのを、どこか意識の遠くで感じていた。





『退屈な午後。』



「一体昨日は何時まで読書をしていたのかしらね。綺麗な目が真っ赤だったじゃないの」

チェリーパイを作るメイドは、少しムッとしているようだった。













 

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