Crimson Hearts
□Retrace:Y
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‥‥‥広い
邸宅に招かれたのは初めてだけど、とにかく広い
平民の生まれ、下町の外れ育ちで生きてきた私とは‥‥世界が違うってしみじみ思う
ちらほら見る使用人はすれ違う度に低頭してからぱたぱたと忙しそうに去っていく
うん。みんな働き者だな
しかし‥‥
この調子で目当ての人物を見付けられるだろうか
「次に人を見つけたら聞いてみるか‥‥」
何てことを呟きながらやっぱり全てが物珍しくてキョロキョロしながら歩く
「あ‥‥」
窓越しに見えるバルコニーに日に照らされた透明色の頭を見つけた
‥‥あれ、ブレイクだよね
しばらく1人で見知らぬ屋敷を歩いた心細さ故か思わず駆け出す
「ブレイク」
バルコニーへ続く部屋へと入り奴の元へ歩み寄ると、お茶会の席にもう1人いることに気が付いた
きらきらと陽光を受けて透けるような金色の髪は後ろ手でひとつにまとめあげられている
幼げながらも優しいその顔立ちには紅茶を啜る姿が相俟ってか、お嬢様ならではの優雅な気品を感じられ女の私でもドキドキしてしまう
シャロン=レインズワーズ様
昨日、顔を合わせて名前の自己紹介しただけで私はすぐに籠ってしまったからまともに話すのは初めてになる
‥‥にしても昨夜は失礼な態度とってしまったな
少し気まずいなんて感じながらも
まるでお人形の様な姿に見とれ、ぼーっと彼女に視線をぶつけていれば、にこっと微笑みかけられた
その素敵な笑みに「ぅ‥‥」と息を詰まらせ少し頬が熱くなるのを感じる
あー‥‥やばい。素直にかわいい
「やあ、アクス君
よく眠れたかい」
「まぁまぁ‥‥かな」
ホントはぐっすりだったけどね
ブレイクに声をかけられなんとなく素直に応えるのが癪で曖昧な答えで返す
「アクスさん
よろしかったら一緒にお茶しませんか?」
「私もですか‥‥?」
えーと、これでもブレイクの非公式とはいえ“部下”なんだけど
「是非!
私もアクスさんと乙女同士、色々お話してみたいことがたくさんありましたの
実は楽しみにしていたんです」
少し照れた様子でシャロン様にもちろんと笑顔で返され、おずおずと席に着く
乙女同士‥‥シャロン様の希望に添えるだろうか
これからの一時に少しの緊張とときめきに似たものを感じて
それから、暫しの休息の時が過ぎていった