Crimson Hearts
□Retrace:T
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いくら練習で活躍しても
部活のみんなより人一倍努力しても
このコンプレックスが消えることは無かった
〔‥‥やっぱり意識してやれば何をやってもうまく行かない〕
それは幼い頃から言えることで
肝心な場面になると必ずと言っていいほど失敗を重ねた
でも、たゆまぬ努力と技術があれば克服出来ると信じていた
だが、現実は県内有数の強豪校で随一のテクニシャンと謳われても
そのコンプレックスばかりは変わることが無かった
レギュラーにいてもボールをネットの近くに運ぶことに専念するしかない
今となっては諦めることに慣れてしまった
“諦めが肝心”だって‥‥誰かも言っていた気がする
「‥‥‥‥待たせちゃわるいかな」
クラブハウスに備え付けられているシャワーで汗を流してしまいたかったが、人を待たせていると思うとそんな悠長なことやってらんない
そうと決まればバサッと体操着を脱ぎタオルで汗を拭き取り制汗剤を気になる脇や首筋に振ってゆく
制服にサッと腕を通し身なりを整え、ふたつに縛っていた髪をほどいた
そのまま野放しにするのは鬱陶しいので片方に長いものだけを集めて編んで縛っておく
キチンと戸締まりをして部室を後にする
彼の後ろ姿が確認できる物影
急いでると思わせたくなくて息を整えこっそりと様子を窺う
ふっと生まれた悪戯心に突き動かされゆっくりと彼に気付かれないように背中へと近付く
そろーっと‥‥そろー‥‥っと
「わっ」
「うわあっ!?」
後ろからポンと肩を叩き短く耳元で言葉を発すれば面白いくらい驚いてくれた
しかし‥‥
「なんだかまだ来るとは思ってなかったって様子だね」
「いや‥‥もっと遅いと思ってたから」
蹲り胸を押さえて弱々しく答える
そんなに激しく驚かしたつもりは無いのだが
「ふーん‥‥そんなに人を待たせるほうじゃないんけどな」
「早いくらいだったよ」
先程のダメージが回復したのか小柄な彼はすくっと立ち上がり言った
「さぁ帰ろうか」