Treasure
□ある夜の月
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「紘くん、やっぱこっち座ってよー」
「もう、何回座り直させんの」
今日はもっきーの家に飲みに来ている。
事務所の人たちで集まって飲もう、って話になって、僕がじゃあ家来てやろーよ、とさくさく決まって今に至る。
なんとなく女の子を呼ばずに男だけでいるからか、話を聞く側が紘くんしかいない。
また違う場所に呼ばれた紘くんはハイハイ、と面倒臭そうに話を聞いている。
と思ったら、アハハハ大きな声で笑い出す。
僕と紘くんは、なんやかんやで“恋人”だった。
でも、最近は紘くんが忙しくて二人で会うのとか、そんな時間があんまりなかった。
だから僕は今日もちょっとだけ紘くんと話せるかな、とか思いながら期待したのに、紘くんは他の人に取られっぱなしだった。
「………んー……」
僕は、なんとか紘くんと二人きりになる方法を見つけようと、なにかないかと探した。
「……あ」
「ん?どしたもっきー?」
「や、ビールなくなりかけだから。紘くん買い出しついてきてくれる?」
タイミングよく紘くんに言えたことに心の中で拳を握りながら紘くんを見た。
紘くんは、ニコッと笑って僕のところへ来た。
僕たちは外に出て紘くんの足のペースで歩いた。
少しの沈黙が流れる。
「最近売れちゃったねー、紘くん」
「やぁ〜?そんなことないよ、そんな忙しくもなってないもん」
「うそだぁ」
「ほんとだってば〜」
酔っているにしては静かな方だった。
彼はいつでもどんな時もガヤガヤとうるさい人だから。
そういえば、僕と二人のときはいつもおとなしめだったなぁ。
また少しの沈黙が続く。
紘くんがしゃべらないということはほとんどないので、
彼相手に沈黙は少し慣れなかった。
そういえば、二人きりになるのってすっごく久しぶりだなぁ、とか思いながら二人歩幅を揃えて歩いた。
「あ、あそこ自販機あるじゃん」
紘くんはパタパタと小走りで自動販売機まで行く。
気分的に僕は紘くんについていかず自分のペースで歩いた。
一足先についた彼はお金を入れて缶ビールを買う。
3、4個紘くんの手にたまったところで僕も自販機までたどりついた。
持って、と2個僕に渡しまた買う。
よし、と一段落ついたところで最後の缶を取り出し、
僕が持ってきた袋に入れて、帰ろっか、と僕を見る。
再び沈黙が続く。
紘くんは一人忙しくよいしょ、よいしょとつぶやいている。
「……遠くなったなぁ。紘くん」
つぶやくようにそう言った。
「え!?何言ってんの、もっきー」
「や……思ったことそのまま言っただけだよ」
紘くんはいかにもびっくりしてます、という顔で僕を見る。
「遠くないよ、やめてよそんなこと言うの」
「うん、なんかちょっと変だな僕。ごめんね」
笑ってごまかすと、彼は足を止め、下を向いた。
「ど、どうしたの紘くん?」
「俺は……俺は」
「忙しくなってももっきーのこと、好きだよ」
「……!」
「だから、そんなこと言うなよ」
そう言った彼の肩は少し震えていた。
僕は少しあせりながらも、今さっき言った言葉に、反省した。
僕は紘くんを静かに抱き寄せた。
「紘くん、ごめん。もう言わないから」
「……約束、しろよ」
「うん、約束する」
抱きつくのをやめると、紘くんが少し寂しそうにこっちを見た。
ニコッ、と微笑むと彼は少し戸惑ってから笑顔を僕に向けた。