小説4
□ハートだなんてかわいくない
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この気持ちはハートマークなんて可愛いものじゃない。もっとドロドロしていて汚いもの。
(……真鶴さん)
いつものようにカッフェー浪漫の机に頬杖をついて、本のページをめくる真鶴さんに見惚れる。わたしは本をあまり読まないけれど、真鶴さんが読んでいる本は全て読んでみたくなる。それだけ真鶴さんに夢中なのだ。
「おかなちゃん」
背後から名を呼ばれて振り返ると、そこには慧介さんの姿。「お鶴いる?」と訊かれたので頷き、真鶴さんの座る机を示した。
「あちらに」
「よし、ありがとさん」
くしゃっと頭を撫でられて、一瞬の後には慧介さんは真鶴さんの元へ向かっている。一言二言交わして、真鶴さんの向かいに座る慧介さん。するとそこは二人だけの空間になる。店の中には、ほかにもたくさんお客さんがいるのに。
「おかな、ぼーっとしてどうしたの?」
じっとその空間を見つめていると、仕事仲間にポンポンと肩をたたかれる。慌てて我に返って、笑って見せた。
「ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「最近おかなそういうこと多いよね。恋?」
「まさか」
「とか言って、お相手は誰? まさかお客さん?」
「違うよ。それくらい弁えてるもん」
「ならいいけど」
お客さんに恋しちゃいけない。それはこのお店の決まり事。お客さんに恋をしたらそのお客さんに夢中になって、他のお客さんの相手をしなくなるかもしれない。だからと言うのと、こんなお店に来る客にロクな男はいない、という店長の持論による。わたしもそれは分かっているし、そのわけも理解もできる。それでも、
ーーそれでも、真鶴さんから目が離せない。
慧介さんになりたい。そう何度思っただろう。わたしのままじゃ、わたしは二人の間に割り込めない。二人の繋がりは強すぎて、わたしどころか幽貴さんにも魚さんにも破れない。ならせめて慧介さんになりたい。そしたらあんな風に笑い合えるのに。
ああ、馬鹿みたい。
この恋はハートマークなんかじゃない。もっと汚くてドロドロしていて、きっと、心臓みたいに赤黒いものだから。
(でもすき、すきすき、だいすきなんた)
おかなちゃん、久々の登場。真鶴のことを好きにするか悩んだ後、やっぱり好きにさせました。おかなちゃんと慧介と真鶴には原型となったオリジナル作品があるので、それに準拠。
お題はリラン( http://rvp.xria.biz/?guid=on)様よりお借りしました。