小説4

□壊れても、人間でありたいの
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 僕が自分が人間として壊れていると気付いたのはいつのことだったか。たぶん一高にいた頃のことだと思う。周囲の人間と比べてどこかおかしい自分を見いだしたのが始まりだった。
「気のせいだろ」
 親友の虎はそう言って笑って、そんなことより歌舞伎観に行こうぜ、と僕を誘い、僕もそれに乗ってその日はそれで有耶無耶になってしまったけど、しかし僕にとっては大きな問題だった。
 僕は壊れている、それも生まれつき。どっかの部品が足りないのかもしれない。とにかく僕は人間としては失敗作だった。ただ、当時の友人たちには、まともなみんなには、言えなかった。
 僕ははじめ、それを小説にしてみた。自分はできそこないだと思っている男と、そいつに惚れた女の物語。二人は最後心中した。男の方が生きることに耐えられなくなったのだ。
 僕の処女作は雑誌に載ったけど、それほど話題にならなかった。青臭い青年の作品とか、心中する点が人形浄瑠璃を本家どりしているとか思われたらしい。確かに当時は虎に誘われてよく歌舞伎や人形浄瑠璃を観に行っていたから、それもあるかもな、とぼんやり思っていた。
 それから僕は、何本か小説を書いた。どれも少し現実とは異なった、幻想世界を描いた作品だった。妖怪や幽霊の現れる世界だ。こっちは割とウケた。読本の影響だの何だの言われた。
 そのうちに師匠のもとに出入りするようになって、そして出逢ったのが、慧だった。
「お前が真鶴か?」
 そう問われて、師匠と喋っていた僕は部屋の入口を振り返った。立っていたのは同年代の、どこか退廃を感じさせる男。
「……そうですけど」
「俺はお前の処女作が好きだな。自分の末路を見たみたいな気がした」
「あれは僕のことを書いたつもりでした」
「なら俺らは同類だ。敬語なんてやめろよ。俺は慧介だ」
 それから僕ら壊れた二人の友情、もしくは共依存関係は始まった。壊れたものと壊れているものを足しても二つの壊れたものにしかならない。それは分かっていても、僕たちは互いから離れられなかった。狂った歯車がぴったり合う、それが僕らだったんだ。
「いつか心中するか、二人で」
「いつかね」
「実は同性愛者だった、とか騒がれるんだろうな」
「嫌なら他の人と心中してよ」
「いや、それは付き合わされる相手が可哀想だ。お前がいいよ」
「同感」
 僕たちは二つの失敗作。壊れた人形。それでもとりあえず今は、生きている。





何となく二人の出逢いと、あとちゃんと作家なんだよーってことを書きたくて。
お題は檸檬齧って眠る様( http://nanos.jp/lemonsleep/) よりお借りしました。

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