小くら@

□家庭的女子
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「家庭的な女子がいない!!」
 昼休みの小説倶楽部部室。
 絶叫したのは、カレーパンを食べていた光太であった。
「……どうした?」
 それを聴き、ヤサに薄皮あんぱんを与えて(餌付けして)いた透夜が眉を寄せる。
「見てみてくださいよ、女子の弁当!」
 それに答えて光太が指差したのは、部室に広げられた女子の弁当。「……失礼な」と誰かが呟く。
 ぐわあと悶える光太に、珍しく顔を出していた紗綺が憤慨したように言った。
「料理くらいしてるわよ、ほら」
「え……でも姐御の弁当って」
「卵焼き焦げてるよなグハアッ」
「ヤサは黙ってて」
 そこに余計なことを言ったヤサは顎を殴られる。しかし、彼が指摘したように、紗綺の弁当箱に入った卵焼きは焦げていた。
「……どうせ自分で食べるんだから良いのよ」
 そこは本人も気にしているのだろう、さり気なく弁当箱を隠すようにして言い訳のようにもごもごと呟く。すると、その隣の席でもやしもんを読みつつ弁当を突いていた白美が「わたしは、紗綺もすごいと思うよ〜」とおっとりと口を開いた。
「わたし、料理とかしないもん」
「外見は一番家庭的なのに!?」
「だって面倒じゃない? それに、料理してるないからね〜。土日はBASARAで忙しいんだもん」
「しかも超駄目人間な理由……」
「オレ、光太の中での女子への幻想が崩壊していく現場を見てるわ……」
「泣いていいっすか?」
「オレが許す」
 ライトノベル的な「私……お弁当作って来たの」は現実にはないものなのか。絶望的な顔をする光太だが、現実とは所詮こんなものである。幻想とは崩壊するためにあるのだ。
「そうだ! 根尾は……」
「わたし、料理は駄目で……」
「終わったー!」
「ミタベ、どんまい……」
 困ったように目を逸らす遥、悲鳴を漏らす男子二名。何故か透夜だけはうんうんと頷いている。
「わたしおっちょこちょいだから、料理すると焦がしたり指切ったりで……」
「やはり遙ちゃんはドジっ子属性か……」
「トーヤ、やはり?」
「ぽくないか?」
「あ、わたしも思ったよ〜」
「……さすが二次元組」
 既に特殊能力の域である。
 しかし、遙のこの発言により、男子の希望は完全に断たれることとなった。
「ヒメはムリだよなー」
「っすね」
「まずやりたがらなそうだし」
「頼んだらめちゃくちゃ嫌な顔されそうっすよね……」
 本人がいないのを良いことに思い思いの言葉を口にする光太とヤサに、しかし紗綺が「そんなことないわよ」と口を挟む。
「確かに自分からはあまりやらないけど、姫子、料理できるわよ?」
「「マジで!?」」
「マジで」
「バレンタイン……何もくれなかったのに……!?」
「気が向いたときには作るらしいわね。そんなに難しいものは作らないみたいだけど」
「うわー、想像もつかねーな」
 料理が上手か下手かというレベルではない。この場の者の共通イメージは、「姫って家事とかしなさそうだよね」というそもそもの問題から始まる。
「……ま、エプロンは似合いそうだけど」
 呟いたヤサは、透夜にグーで殴られた。
 それに、と今度は遙が言う。
「料理できる人、いますよ?」
「え?」
 他に誰かいただろうか。今度は全員が遙のことを見る。
「ほら、あのお弁当」
 彼女が指差したもの――それは、「トイレに行ってくるー」と先程部屋を出て行ったルー子の弁当箱であった。
「ルー子ちゃん、自分で料理してるんですよ?」
「「えーーーーーー!?」」
 遙が口にしたまさかの言葉に、全員が目を剥く。
「嘘だ……」
「あの、ルー子が……」
「一番料理できなさそうなのに……!?」
 ふわふわのオムレツ、パリッと音がしそうなソーセージ、皮の残っていない綺麗な林檎――。キラキラと輝く弁当箱の中身が、全員の視線を受けて更に輝く。
「確かに、ルー子ちゃんの家は共働きだったような……」
「じゃあこれ、本当にルー子が?」
「すげえ……」




 数分後。
 トイレから帰って来たルー子に注がれたのは、憧れと感動とその他諸々の眼差しであった。
「……え、みんなどうしたの? 何があったわけ?」
「いや、」
「……何でもない」




 人は見た目によりません。








しかしこの部活、女子の料理の腕前がかなり壊滅的である。多分男性陣の方が料理できるぞ。

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