小くら@

□トマトマトマト
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「……ねえ光太、なんでぼくたちは五月の太陽の下、肯定の端の菜園にいるの?」
「そんなの、園芸部の活動のために決まってんだろ!」
「ぼく、園芸部じゃないんだけど」
「手伝ってくれるくらいいいじゃねえか。ほら、ビニール袋」
「何のための?」
「抜いた雑草入れるための」
 広い校庭の端に位置する、こぢんまりとした庭。そこは園芸部と生物部と生物教師専用の菜園である。
 その真ん中に、龍と光太の二人は立っていた。
 いきなりメールで呼び出されたため、龍はいつもどおりの制服姿。対する光太は、カッターを脱いだTシャツとジャージという、農作業する気ばりばりの服装である。
 腕まくりをした光太は、龍が面倒そうな顔をしているのにも構わず、元気に右手を突き上げた。
「やるぞ! おれのトマトのために!」
 時は五月。実はおろか、トマトにはつぼみすらついていない。
 しかし、この時期が一番重要なのだと、光太は思っていた。
「ほら、ぼーっとしてねえでやるぞ! 除草!」
「……女装?」
「く・さ・ぬ・き!」
「だから僕、園芸部じゃないんだけど……」
 しゃがみ込んで草を抜き始めた彼に半ば押し切られるような形で、文句を言いながらも手伝い始める龍。
 何度も繰り返すが、今は五月。季節上は夏でこそないが、太陽は情け容赦なく照りつけている。
 その中を、黙々とブチブチ草抜きする二人の少年。
 土のついた手で額の汗を拭いながら、龍がため息をついた。
「それで、これいつまでするの?」
「雑草がなくなるまで」
「無理だよ」
「大丈夫、まだ二時間ある!」
「無理。……帰りにアイス奢ってくれるならやるけど」
「ガリガリくんな」
「ハーゲン」
「無茶言うなよ! 金ねえし!」
「嘘だよ、パピコで良い」
「……半分おれのな」
「どんだけ金がないのさ……」
 それにしても熱いと思いながら、カッターシャツを脱いで腰に巻きつける龍。
 彼が雑草抜きを再開しようとすると、「あ」と光太が注意する。
「その棒より後ろ行くなよー! そこハーブだから、素人は間違えて抜いちまうって!」
「ん。分かった」
 頷いて、棒の位置を確かめながら、作業を再開する。
 何だかんだくだらないことを喋りながら、三十分ほど雑草を抜いた頃。
 疲れを感じ始めていた二人に、突然声が掛けられた。
「何してんだ、二人とも」
 立っていたのは、テニスのユニフォームに身を包んだ忍である。
「雑草抜き! おれ、園芸部なんすよ!」
「へえ……大変だな」
「忍先輩こそ、どうしたんですか?」
「ああ、さっきまで筋トレだったんだ。今からコート練するとこ」
 肩に担いだラケットを上下させ、にっと笑う忍。
「にしても、らしいな」
「何がっすか?」
「光太と農業。前姫と言ってたんだけど、光太って麦わら帽被って蝉追っかけてたタイプだろ?」
「やってたっすけど……」
「やっぱな」
「そんな話、してたんですか?」
 突然出てきた憧れの名前に、龍は目をぱちくりさせながら訊く。
 忍は頷いて、「メールでだけど」と付け足した。
「二年なったらクラスも違っちまったし、あんま直で話さねぇからな」
「……ふうん」
「安心しろ、龍。オレは姫にそういう興味はねぇから」
 ラケットで龍の頭をぽんぽんと叩き、笑って見せる忍。
 爽やかな表情の彼は、「じゃ」と二人に手を振った。
「オレは練習行くから」
「トマト出来たら、ちょっと分けるっすから!」
「オレ的には、そっちの芋でスイートポテト希望。調理部にでも部屋借りて、ハロウィンパーティーやろうぜ」
「まじっすか!?」
「去年もやったぜ。コスプレパーティーだったけど」
 上機嫌にラケットを回しながら、テニスコートへと忍は歩いて行く。
 その背を見ながら、「よっしゃ!」と光太は叫んだ。
「おれらも部活頑張るぞ!」
「だからぼく、園芸部じゃないんだけど……」
 何度目かの相棒の言葉は、聞こえないふりをして。







光太には農作業が似合うよね!という話。

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