小くら@

□目映いきみの胸に咲く花
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 花を探して、歩いていた。
 目映い、花を。
 現実の話ではない。夢の中の話だ。



 孫策は、どこまでも続く白い空間の中を、あてもなく彷徨っていた。
 胸の中にあるのは、ひとつ、花を見つけなければならないということだけ。
 どんな花かは、分からなかった。一本だけなのか、たくさん咲いているのかも。
 ただ、とてもとても、比べるものもないくらい美しいのだというだけは、分かっていた。
 真っ白い空間は、どこまでも続いている。遮るものは何もない。
 だから、孫策は歩くしかなかった。
 歩いて歩いて、ひたすら歩いて行く。
 途中で途方に暮れそうになった。もう嫌だ、と投げ出してしまいそうになった。
 だけど、花を見つけなくてはならないという強い意志は、それを許しはしなかった。
 億劫になる心と足を叱咤して、孫策は歩き続けた。



 どれほど歩いただろうか。
 やがて、丈夫な孫策の足も疲れ、歩こうとすると縺れそうになるようになった頃。
 孫策はようやく、花を見つけた。
 それは、たった一輪で、ぽつんと存在していた。
 花はまだ、咲いていない。蕾のままだ。
 ここまで来て、花の咲いた姿を見ることはできないのか。孫策はげんなりして座り込み、手を伸ばして、蕾に触れた。
 そのときだった。
 固く閉じていた蕾が、見る見る色に染まったかと思うと、ぱっと花が咲いたのだ。
 確かに、その花は、美しかった。大輪のその花は、何物にも負けないくらいの、圧倒的なまでの美しさを誇っていた。
 美しく咲き誇る花に、強烈なまでに、孫策は惹かれた。
 そして、折角ここまで来て見つけたのだから、弟や妹たちにも見せてやろう、と思い、花の付け根に手をかけた。
 すると。
 見る見るうちに、花が一人の青年に変わったのだ。
 孫策は息を呑んだ。
 青年は、まさしく花のようだった。
 清楚だが艶やかな美貌は、天女のように何者にも勝っている。そして、その頭の中に眠るのは、煌めくばかりの智謀。そして更には彼は武に優れ、音楽の才も併せ持っている。
「……公瑾」
 いつの間にか手を握っていた彼の字を孫策が呼ぶと、周瑜は伏目がちに応えた。
「何でしょうか、伯符様」
 繋がった手を、周瑜が、優しく握る。
 孫策は悟った。
 そうだ。周瑜こそが、花なのだと。
「公瑾」
 もう一度彼の名を呼んで、孫策は身を乗り出した。
「そうだ。お前こそが唯一の俺の花だ。咲き誇る、何よりも美しい、何物にも代えがたい、花なんだ」
 そうだ。だから手折る必要なんてない。そんなことしなくとも、彼はいつでも傍にいるのだから。
「公瑾」
 呼びながら彼の体を抱き締めて、孫策は周瑜の肩口に顔を埋める。
「俺の、花」
 吸い込んだ匂いは、花のように、清冽なものだった。







周瑜を花に見立てるなら大輪の花(by北方三国志の曹操様)しかないやろう!ということでそうなりました。
しかし、夢の中みたいなどこでもないどこかが大好きですな、私。何度目や。
お題は「言葬」様よりお借りしましたー。

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