小くら@

□見送るだけじゃ足りないから
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「伯符様、出立の準備は整いましたか?」
 部屋の戸を叩いて入室してきた周瑜は、開口一番にそう言った。
「忘れものなどなされてはいませんよね?」
「大丈夫だって」
「そうおっしゃる言葉に信が持てないから、こうして尋ねているのですよ」
 周瑜の本気で心配そうな言葉に、孫策は笑い声を上げた。
「大丈夫だ。大喬にも確認してもらった」
「なら大丈夫ですね」
「俺より大喬を信用するのか?」
「何事も、本人には分からないことがございますから」
「それはそうだが……」
 座って剣を磨いていた孫策を見下ろすように立った周瑜は、「まあ」と声を漏らした。
「見たところ、忘れものはなさそうですね」
「信用しろって」
 なあ?と見上げた孫策は、周瑜の結った髪を引っ張った。
「っ、」
 体勢を崩した周瑜の体を受け止めて、孫策は低く笑いながら耳元で囁く。
「公瑾、まるでお前が俺の妻のようだな」
 その言葉に、周瑜は孫策の顔を押し退けて、「何をおっしゃいます」と腕組みする。
「大喬様に失礼です。謝ってください」
「思ったことを言っただけだ」
「……あのですね、伯符様」
 今度は自主的に屈んだ周瑜は、孫策の目をじっと見つめて言った。
「私が、貴方の背を見送るだけで満足するとお思いですか」
「……公瑾」
「私は、貴方と背を預け合って、ともに戦いたいのですよ」
 ですから、と周瑜は微笑む。
「私は貴方の妻では満足致しません。戦友でありたいのです」
 二人の視線が、ぶつかり合う。
 それから、同時に微笑んだ。
「それなら、今日も俺の背中を頼んだぞ、公瑾」
「ええ、お任せください、伯符様」
 周瑜が姿勢を正し、孫策は刀を鞘に納める。
「参りましょう、伯符様」
「ああ、そうだな、公瑾」
 二人はそうして歩き出す。
 まだ見ぬ、戦場へと。








いや……これは策瑜ですね。+じゃなく×ですね。

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