小くら@

□新人募集中
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「周瑜殿」
 周瑜の執務室を訪れた陸遜と凌統は、何やら真剣な顔をしていた。
「……どうかしたのか?」
 書をしたためる手を止めて周瑜が尋ねると、二人はごくりと息を呑み、そして、陸遜が進み出て言った。
「周瑜殿――――どうか、絵を描かれてください!」
「……は?」
 陸遜の言っている意味が理解できず、眉を寄せる周瑜。
「私の絵なぞ描いてどうするのだ。誰も喜ぶまい」
「いえ、周瑜殿の絵なら私は食卓に飾りますよ!」
「…………」
「じゃなくて! 実はこれも、周瑜殿の執務なのです」
「……執務?」
 まだ言っている意味が分からないという顔をしている周瑜に、代わって凌統が言った。
「実は、新兵募集のポスターを作ろうと思っているんです」
「ポスター……ここがいつのどこか分かって言っているんだろうな?」
「カタカナ言葉が出てきてしまったのは、作者が代わりの言葉を思いつかなかったからだと受け入れてください」
「とにかく……新兵募集のポスターに、周瑜殿の絵を添えたいのですよ!」
 身を乗り出して、陸遜は言った。
「ここは下手に関係ない美女の絵を描くよりも、周瑜殿の絵を描いた方が絶対に人が集まりますから!」
「何故だ?」
「こんな美しい上官がいると知ったら、誰でも入りたくなりますよ! 何か間違って自分がこの人といい感じになったら……とか男なら考えるはずです!」
「陸遜殿……考えたことあるんですか?」
「失敬な! 私が周瑜殿をそんな邪まな眼差しで見ることはありません!」
「……そうですか」
「とにかく! 周瑜殿の絵を添えたら絶対に人が集まると思うんです! ということで、お願いします!」
「……お願いします」
 陸遜と凌統は、そろって頭を下げる。周瑜は困惑した顔でそれを見た。
「……どうしても私でなければならないのか? 顔が良い人間なら、陸遜、お前だっていいだろうに」
「私の場合は知名度が低いから駄目なんですよ。呉の周瑜殿と言えば、誰だって知ってるじゃないですか」
「……顔が良いのは否定しないんですね」
 陸遜の返答に、凌統が横で小さく突っ込む。陸遜は気付かないふりをして続けた。
「これも兵力アップのためです。どうですか? 周瑜殿」
 頼みこんでくる陸遜の熱意に、しばらく考える顔をしていた周瑜だったが、やがて「仕方がない」と頷いた。
「これも孫権様のためだ。絵師を呼ぶ手はずはついているのか?」
「はい。呉一、いや、中華一の絵師を呼んであります」
「私は座っているだけでいいのだな?」
「はい。一枚描かせて、それから数枚複写させるつもりです。周瑜殿のお手間は最低限しかとらせません」
 お任せを、と陸遜が頷く。
 こうして、呉軍新兵募集ポスターを作る手筈が整った。





「陸遜殿! またポスターが盗まれました!」
 数日後。
 凌統からの報告に、陸遜は「またですか!」と声を上げた。
「これで十枚目! 二十枚中十枚! さすがに盗まれ過ぎでしょう!」
「ポスターを盗む……曹操の妨害工作でしょうか?」
「いえ、ただ単純に絵が狙われているのだと思います」
 顎に手を当てた陸遜は、「おそらく」と続ける。
「動機は二つ。周瑜殿のファンが周瑜殿の絵を欲しくて盗んでいる、これが一つ。もう一つは絵が美しすぎて誰だか知らずに盗んでいる。この二つです」
「……はあ」
「これを許すわけにはいきません! 私も欲しかったのに! こんなことなら一枚くらい盗んでおくべきだった!」
「…………」
「凌統、犯人を探しますよ!」










陸遜が周瑜を好き過ぎるとかそういう突っ込みはなしの方向で。

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