小説3

□余興屋さん
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「私は余興屋というものをやっています」
 わたしの前に現れたおじいさんは、そう言って深々と頭を下げた。
「余興屋さん……ですか」
「はい」
「儲かりますか?」
 率直に尋ねると、おじいさんは苦笑して言った。
「いえいえ。最近はデジタルが発達しましたから、人々が余興を求めなくなったのですよ」
「それは、大変ですね」
「はい」
「幾らくらいするんですか」
「余興の内容によりますね」
 丸々とした顔で言われて、ちょっと気になった。
「わたしも、買ってみていいですか?」
 訊いてみると、おじいさんは驚いたような顔をして言う。
「おや、珍しい。本当に買うんですか?」
「はい。この機会に一度」
 よろしくお願いします、とわたしは頭を下げる。すると、おじいさんは「分かりました」と被っていたシルクハットを取った。
「お見せしましょう」
「幾らですか」
「お金は取りません。買ってもらえた喜びだけで十分ですよ」
「でも……」
「どうぞ、お気にせず」
 シルクハットを被り直して、おじいさんは笑う。
「では、お見せしましょう」






 おじいさんの余興が終わった。
 わたしの目からは、涙が止まらなかった。








唐突に出来上がったシリーズ。
ちょこちょこ更新します。

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