小説3

□持ち込み禁止!
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 某月某日。
 図書室に現れた透夜の大荷物に、室内にいた誰もが目を点にした。
「部長さん、どうしたんですか……その大荷物」
 一同の気持ちを代弁して姫璃が問うと、「実は」と透夜は巨大な鞄を開封する。
「ゲームや雑誌や漫画を買いあさり過ぎてな……置き場所がなくなったんだ」
「はあ……」
「それで、みんなに引き取ってもらおうかと」
「良いんですか!?」
「ああ。欲しい人間の手元にあった方が、良いだろうしな。余った分は、部室に置いておくつもりだ」
「わ〜い、じゃあ早速チェックしてみていい?」
 目を輝かせて、室内にいた部員たちが透夜に群がる。最初に良さそうな物を発見したのは、ルー子だった。
「これは……! アニメージュの付録の、薄桜鬼グッズ……!」
「乙女ゲーまでは、さすがの俺も手を出していないからな」
「あっ、デュラの下敷き! わたしこれ貰うね!」
 続いて白美が掘り出し物を見つけ、さっと手元に引き寄せる。
「欲しかったんだよね〜、ありがとう、部長くん!」
「いやいや、礼には及ばないさ」
「あっ、これ電撃大王ですか? しかも貴重な『空鐘』の短編が載っていた号……」
「ああ、そうだぞ。ライナスティのやつだろう?」
「ください! あっあとこっちも!」
「短編一本のためだけに雑誌買うのって勇気要るよね〜。買えない気持ちよく分かるよ〜」
「毎回乗る漫画のためにゲーム雑誌を買う百万の台詞ではないな」
「てへっ☆」
 少女漫画ちっくに舌を出した白美が、こつんと自分の頭を叩く。それに突っ込む者はいない。無視して、隣で「これは……!」と龍が目を輝かせた。
「『P2!』!」
「全巻あるけど、欲しいか?」
「欲しいです!」
「『P2か!』……懐かしいですね」
「あっ、こっちには『ムヒョロジ』が! おれこれ貰っていいっすか!?」
「なんか、懐かしい少年漫画祭りみたいだね〜」
「じゃ、あたしは『OVER TIME』貰おうっと」
「さて、この中の打ち切り率の高さ……。分かる人間は何人いるんだろうか……」
「ちなみに私は全部分かったり」
 次々と掘り出されていく過去のジャンプの打ち切り漫画に、漫画好きでもある部員一同は目を輝かせた。
「ジャンプの打ち切り漫画って、本屋で探すの困難っすよね」
「そうなんだよね〜。アニメイトにもなかったりするし」
「私は本屋三軒ハシゴしたことありますよ」
「やるやるっ」
「……僕はアマゾン派」
「賢いけど! でもやっぱりできたら本屋で買いたいんだよ!」
「それも分かるっ」
 拳を握って熱く語る姫璃、同意するルー子。隣で再び捜索に戻っていた白美が、無言であるゲームを手に取った。
「部長くん、これ貰うね」
「ああ、それは……確かに、女子だと購入しづらいな」
「でも欲しかったの!」
 とある三国志ギャルゲーである。白美の主張も無理はない。歴女とは罪なものなのである。
「ゲームまであるんですか……」
「古本に売るのも忍びなくてな……」
「このスマブラ貰っていいっすか?」
「じゃああたしはこっちの『けいおん!』のゲームを」
「容赦ねえ!」
「姫はいいのか?」
「私はゲーム持ってないので……。って、どさくさに紛れてDVDもある! こっちはドラマCD!?」
 ぞくぞくと出てくる掘り出し物に、目が点になる姫璃。だが、そこはすばしっこい彼女のこと。お目当てのブツはしっかりゲットしていた。
「『され竜』のドラマCDと『今日の早川さん』のドラマCD、貰いますね!」
「ラインナップがとことん姫だな……」
「なら僕は、『百物語』を……」
「ああ、『化物語』のドラマCD?」
「そっか、龍ちゃんはアニメ好きだから見てたんだ……ちょっとイメージにないかも」
「シャフトのアニメと言えば、久米田の……」
「どれも家にあるな、OVA」
「今度鑑賞会開きましょう!」
 わいわいがやがや、騒がしいことこのうえない室内。すると、「そういえば」と光太が首を傾げた。
「本はないっすよね」
「本はな……どうしても、手放す気になれなくて」
「ああ、それ分かります。いつ読み返すかと思うと、売れないんですよね」
「わたしも〜」
「あたしもっ。もういい加減自分の好みじゃなくなった小説も、売れないな」
「……分かる」
「そうやってると、本棚に家が占領されていくぞ……」
「と、経験者の真紅先生が語る」
 首を突っ込んできた真紅に、すかさずルー子が茶々を入れる。真紅は苦笑しながら答えた。
「ミステリー好きは、買わずにはいられない人種なんだよ」
「そうなんですか〜。歴史小説好きもですよ?」
「それはお金に余裕のある人の台詞ですよね……」
「同感」
 じとり、と姫璃と光太が真紅や透夜を睨む。あはは、と透夜が笑い声を上げた。
「それもそうかもな。もう欲しい物はないのか?」
「いや……だって残りは……ねえ」
「男性向け同人誌とエロゲだもん! さすがにいらないよ!」
「ねっ」
「おれもちょっと……」
「僕も」
「そうか……」
「突っ込むべきところは、それを学校に持ってきている事実だよな?」
 さすがにドン引きする一同と、爽やかに笑う透夜。この外見に騙されてはいけない。
「とりあえず、今日はこのへんで……」
「そうか、ならこれは部室に数日間置いておこう」
「やめてくださいよ、小くらの品性疑われますよ!?」
「部員しか入らないからいいだろう」
「紗綺姐さんが見たらブッ殺されますよ!?」
「……大丈夫だ」
「なにその間っ」
「何かあった時には、俺が責任を取る」
「いや、当然だからっ」
 ボケを連発する透夜に、すかさず各方面から入るツッコミ。それらを軽く受け流し、透夜は部室へと歩いて行った。




 数日後。
 鞄を引き上げようと思って部室に入った透夜は、鞄を漁る人物を発見して電気を点けるのをやめた。
「……光太」
「あっ……どうも」
 何とも言えない空気が、二人の間に漂う。先に打ち破ったのは、透夜だった。
「女子部員がいる場所では、さすがに欲しいとは言えないだろう?」
「そうなんすよ、ありがとうございます」
「年頃の男子だからな……。周りも気になるが、欲しい物は欲しいだろう。仕方がない」
 男性向け同人誌を何冊か手に取った光太は、そそくさとそれらを鞄の中にしまい込む。そして出て行こうとした彼の背中に、透夜は明るい声をかけた。
「親に見つからないように気を付けろよ!」
 そう言う透夜は、親公認である。









10000打リクエスト、「透夜が買いあさり過ぎた物を小くらに持ってくる話」でした!
みるく君、リクエストありがとう!
いやあ……とても楽しかったです^^

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