小説3

□裏切りなどは許さない
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「呂布殿」
 そう言って、私は頭を下げる。目の前の男は私が使えるに相応しい男なのか、見極めながら。
 呂布奉先。
 董卓の一番の部下であった男。
「お待ちしておりました」
 この男には、紛れもなく英雄の器がある。それは、間違いがない。
「……何故俺につく?」
「曹操は、天下を取るに相応しくありません。貴方こそが、天下の器」
 伏せた顔で、にやりと微笑んだ。
 そう、この男こそ天下を取る器を持っている。曹操などより余程、私が仕えるに相応しい。
 曹操は、私の器を見切れなかった。だからこうして私に裏切られている。それに、あの男にはたくさんの軍師や文官がいる。あの男は、その者たちを私よりも高く買っているのだ。
 だが、この男は違う。
 この男には、軍師がいない。いくら猛将といえど、軍師の一人や二人は必要なはずだ。
「どうぞ、こちらへ」
 立ち上がり、城内の案内へと移る。
 と、後ろから首を掴まれた。
「陳宮、と言ったな」
 耳元で聞こえたのは、威圧感に満ちた低い声。ぶるり、と背筋が震えた。
「お前は俺に従うか?」
「……はい、ですからこうして」
「よもや、曹操にしたように、裏切ったりはしないだろうな?」
「……」
「俺は、裏切りものは好かん」
「ここで私を殺しますか」
 首を捻り、こちらを睨み付ける男の顔を見る。不思議と、恐怖はなかった。
「……いいや、まだ殺しはしない。だが、覚えておけ。俺は裏切り者を許さん。お前が少しでも裏切る素振りを見せたら、そのときには首を刎ねる」
「……御意」
 ギラギラと光る目に、心が歓喜の声を上げた。
 ああ、これだ! この男こそ、私が仕えるべき男なのだ。










腹黒い陳宮。

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