小説3

□欲求地獄
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※12巻ネタバレ
※思いっきりBL、注意!






「欲求不満そうな顔をしているな、司馬懿」
 整った顔でとんだ言葉を投げかけてくる曹丕様は、ぞっとするほど研ぎ澄まされていて美しかった。
「お前にはどんな女も物足りぬのか?」
 嘲笑するような物言いを、いつもなら大人しく聴かなかったことにしていた。そして、いつもなら、曹丕様もそれ以上は追及してこなかった。それはお互い様だったからだ。並の女に満足できずにいつもいつも殺してしまうのだと、曹丕様の残虐なまでの征服欲は、いつも噂の種だった。
 だから、そのとき口を突いて出た言葉は、何かの間違いだったのかもしれない。
「おっしゃるとおりです」
 そして、続く曹丕様の表情も、何かの間違いだった。
「矢張りな」
 冷酷で知的な眼差しの中に、確かに含まれた情欲の色。それから、寒気がするほどに優しい笑顔。それは何かの誤りだった。このような顔をする曹丕様を、私は見たことがない。
「私はお前を凌辱して滅茶苦茶にしてやりたい。その冷たい顔を赤く染め上げ、謀を考えるお前の頭を私のことで埋め尽くしてしまいたい」
 どうだ、と曹丕様は首を傾げた。
「おかしいか、司馬懿」
「いいえ」
 おかしいのは、私の方でしょう。私は、そう呟いた。
「それなら、私を犯して辱めていただきたい」
 ずっとずっと、欲しかったのは曹丕様だけだった。犯されたいと思うたびに、頭を過ぎる姿は曹丕様だった。その薄い口で罵って、お前の代わりなどいくらでもいるのだと責めて、理性も矜持も打ち壊してほしかった。
「曹丕様」
 短所も長所も併せ持つ冷酷無情な君主に、本当は、心酔してしまいたかった。私の心はいつもそう叫んでいた。それでもそうしなかったのは、何よりも曹丕様の役に立ちたかったからだ。そのためには、離れていなくてはいけない。私はそれをよく知っていた。曹丕様もそうだろう。媚びへつらって寄って来る私など、曹丕様には必要でなかっただろうし、また、犯したいとも思わない相手だったはずだ。
 それでも互いに、一番欲する相手は互いだった。駆け引きも、何もかも、緊迫感と情欲を孕んで冷たく燃えていた。壊していただきたい、でもまだ役に立ちたい。その想いを、何度女にぶつけただろうか。結局のところ、誰もかれも代わりに過ぎなかったのだ。私と出逢った曹丕様は女に満足できなくなり、曹丕様が死んでやっと私は女に満足できた。その事実に、本当は、気付いていたはずなのに。
 ずっとずっと、気付かないふりをしていた。
「貴方に壊していただきたかった」
 今だから言える。もう貴方は私の主ではなく、魏の君主でもなく、私を利用する必要もないから言える。
「抱いてください、曹丕様」
 愛しい貴方はもう、この世にいない。






どうやってもこういうことだったとしか思えないんですが。というか公式でそうなんですよね?

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