小説3

□あなたのエール
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 諸葛亮が呉を訪れる少し前。
 ライブ映像で対山越族戦線の様子を見ていた孫権と周瑜だったが、闘気を漲らせる陸遜に、それまで黙っていた周瑜が声をかけた。
「陸遜」
 すると、画面の中の陸遜が飛び上がり、「はいっ」と上ずった声で答える。
「何でしょうか、周瑜殿!」
「そちらが大変なのも分かりますが、できるだけ早く帰ってきてくださいね。……こちらも兵力が欲しいので」
「本音が出てるぞ、周瑜」
 さらりと本音を漏らしながら、暗に「私のために早く帰ってきなさい」と命令する周瑜。だが、陸遜にはその部分が聞こえなかったのか、はたまた聞こえなかったふりをすることにしたのか、彼は目を輝かせて、「分かりました!」と頷いた。
「お任せください、周瑜様!」
「頼みましたよ」
 周瑜は呉一の軍師。そんな彼に声援を送られて嬉しくない兵はいない。……と言いたいところなのだが、この場合は少し別だ。周瑜は陸遜の憧れの人物なのである。軍師としても、その他の意味でも。
「あの、周瑜様、実は周瑜様のことが……」
「陸遜様! 山越族が攻めてきました!」
「ライブ映像一旦切りますよー!」
「ああ! ええ!?」
 何事か、重要なことを言いかけた陸遜だったが、無情にも打ち切られたライブ映像。
 画面に砂嵐が浮かぶのを見ながら、「さあ」と周瑜は踵を返した。
「皆が待っておりますし、そろそろ行きましょう」
「あのさあ周瑜……なんか今、どさくさにまぎれて陸遜が重要なことを言おうとした気がしたんだけど」
「そうですか?」
「お前と陸遜、何歳差だっけ?」
「十くらいはあるような気がしますね」
「……この、たらしが」
「何か言いましたか、孫権様?」
 心当たりがありませんが、と言いたげに首を傾げてみせる周瑜。その横顔を見ながら、孫権は低い声で呟いた。
「……腹黒軍師」
 整った顔や柔らかな物腰とは対照的に、使える者は使ってしまえ精神の持ち主。
 それが、周公瑾――世間では美周郎と歌われる、美しすぎる呉の軍師の一面であった。








「みんなの呉」の陸遜が可愛過ぎて。あの周瑜様は誰がどう見ても腹黒。

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