小説3

□お坊ちゃんと保護者
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「孟徳、今日の夕食はどうする?」
 無表情ながらもどこか楽しそうに、エプロンの紐を結びながら夏候惇が曹操へ尋ねる。それに対して曹操は、返事の代わりに唇を尖らせてみせた。
「……孟徳?」
 いつもと違う彼の様子に、夏候惇はことりと首を傾げる。すると、曹操は子供のように頬を膨らませながら、じろっと夏候惇を睨みつけた。
「元譲」
 珍しく字で呼ばれ、「何だ」と夏候惇は歩み寄る。それに少し満足したような顔をしながら、「あのな」と曹操は彼の顔を見て言った。
「お前は誰の部下だ?」
「……孟徳?」
「俺のだろう? お前は俺の将軍だろう?」
「それは勿論そうだが」
「ならなんで、この家の家事の一切をやっているんだ! おかしいだろ! お前一応将軍だぞ! 最近、俺よりもこの家に構っていることの方が多くないか!? お前は俺の部下だよな!?」
 半分涙目になりながら、言いたいことを一気にまくしたてる曹操。夏候惇に構われることに慣れている彼は、最近夏候惇が家事にかかりっきりだったことが気に食わないらしい。そう言われてみれば、とここ最近の自分の行動を思い返した夏候惇は、ついでふっと笑うと、珍しく優しげな顔をした。
「孟徳」
「……何だ」
「心配するな。俺はお前の部下で、お前の将軍だ」
「当然だろう」
「俺がこの家のことをしているのも、お前が天下を取るためだ。俺の行動は全てお前のためだ。当然のことだろう?」
 優しさと誠実さに満ち溢れた顔で諭され、曹操は言葉に詰まる。まるで、親と子供のような会話。拗ねていた自分が馬鹿みたいだ。
「……元譲」
「どうした、孟徳」
 再び字で呼ばれた夏候惇が、きょとんとした顔をする。曹操はくすりと微笑んで、常々思っていたことを口にしようとした。
「お前は俺の……」
 が。
「っ! すまない孟徳、雨が降り出してきたようだ」
「え?」
「洗濯物を取り込まねばならん。……続きは後で頼む」
 さっと曹操の隣をすり抜けた夏候惇は、流れるような動作で庭の洗濯物を取り込んでいく。その様子を見ながら、はあ、と曹操はため息をついた。
「まったく、お前は空気が読めない奴だな……」
 でもまあ、今回に限っては、それで良かったのかもしれない。
 自分が言おうとした言葉を胸の中で反芻して、曹操はにっこりと笑った。


(お前は俺の一番の部下だ、元譲)









魏が、面倒見が良いけど天然な母、ブラコンな妹、それに振り回される長男に見えるのは私だけですか。
うちの呂布子ちゃんの曹操と夏候惇は、BLのような親友のような主従のような微妙な関係。

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