小説2

□彼の人の遺児
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※原作ネタ。晁蓋の死後、頭領争い時
※いつものように、ほんのり晁呉






「貴様はどちらにもつかぬのじゃな」
 童子のごとき身なりをした公孫勝の言葉に、ええ、と呉用は短く答えた。
「つきませんよ」
「何故じゃ?」
「そちらこそ、何故そのようなことを?」
 振り向いた呉用が、ふっと微笑む。肉の削げ落ちた頬はやつれていて、今にも消えてしまいそうだ。そんな彼の様子にため息をついて、公孫勝は座っていた雲から降りる。
「梁山泊のことを第一に思う貴様が戦いを長引かせるなど奇異なことじゃと、そう思ったからじゃよ」
「成程、そういうわけですか」
「貴様は私利私欲など持たん。いや、貴様の私利も私欲も梁山泊の繁栄……あの男の夢の成就にのみ終結しておる。違うかのう?」
「いいえ、その通りですよ。だから、こうして静観しているのです」
 空を振り仰いだ呉用の脳裏に、在りし日のあの男の様子が浮かぶ。今はない、もう二度と手の届かない男のことを思って、呉用はゆっくりと目を閉じた。
「私は、より強い人に次の頭領になって欲しいと思います」
「そうじゃろうな」
「私は頭領にはなれません。その能力がない。だから、私のすべきことは……頭領に相応しい人物を、全力で補佐することです。ですが、その頭領がしっかりしていなければ、元も子もありません」
「能力を量っている、ということかのう?」
「いいえ。私は事態の終息を待つのみです。宋江殿も蘆俊義殿も、未だ軍の指揮の経験はありません。だからこそ、今回指揮をしてみて初めて、どちらが相応しいかが分かると思うのです。それに対して好漢たちがどちらに付くかと、どちらが勝利するか。それによって……梁山泊の意志によって、新しい頭領は自然に決まるでしょう」
「貴様なら、誰が相応しいのか分かっておるのではないか?」
「それは言えませんよ。言ったら、私が意見を口にしたら、それで頭領が決まってしまうではありませんか」
 この梁山泊において、呉用への信頼は絶対だ。彼の策は外れたことがない。何より、象徴でもあった晁蓋亡き今、彼の右腕であった呉用に対する皆の信頼感は、ますます大きくなっている。
「私は梁山泊の意志で次の頭領を決めたいのです。……あの人が作り上げた、梁山泊の考えで」
「ふん、貴様は本当にあの男が大好きじゃな」
「ええ、そうですね。私が本当に大事なのは、梁山泊ではなく、あの人なのかもしれません」
 今更じゃな、と公孫勝は鼻を鳴らした。
「気色の悪い」
 呉用は何も言わず、笑うだけだった。その笑顔が以前のものとは違うことに、公孫勝は当然ながら気付いている。だが、気付いていて口にするほど、彼も愚かではない。
「……無理をするなよ」
 そう言って再び雲に乗った彼は、ふと思いついて、「そうじゃ」と口を開いた。
「もし梁山泊の意志が貴様に集まったら……または内部紛争で倒れたら、どうするのじゃ?」
 それに対し、呉用は迷いなく言葉を返す。
「私を選ぶということが梁山泊の意思なのなら、私はそれに従いましょう。内部紛争で倒れてしまったら……結局梁山泊とは、その程度の物でしかないということでしょう」
「薄情な男じゃのう」
「そうでしょうか? 決まらないまま無理に頭領を選んだところで、上手くいくとは思えませんが」
「お前の愛する梁山泊ではないのか?」
「ええ、そうですよ。だからこそ、」

 無様に壊れゆく姿など見たくはないのです。

 吐き捨てるように呟いた呉用は、風に攫われるようにしてそこから姿を消した。その去って行った方向を見送り、「愚かじゃのう」と公孫勝は目を細める。
「まるで子供を見る目をしておる」
 ならば躾け直してやれと続いた彼の言葉に、「そうですね」と呉用は俯いて呟いた。
「あの人が生きてさえいれば、私も手出してきたでしょうに」







呉用=お母さん説(?)
呉用が後継者争いに口出ししなかったことについて、あれこれ妄想してみた結果がこれ。呉用にとっての梁山泊は自分のものじゃないから、手助けすることしか出来ない。ナチュラルに晁呉。下地は晁呉。前提として晁呉。
そしてさり気なく公孫勝が現れた。違和感なし。これでいいや。

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