小説2

□天下無双
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 時々、無性に不安になる。
「なあ、呉用」
「どうなされました?」
「俺なんかで、良いのか?」
 俺がお前に相応しいのか、それが俺には分からない。
 俺がそう問うと、決まって呉用は大人びた笑いを見せる。形の良い唇をすぼめるように、ふふふ、と。
「良いも何も、私が今ここにいるのが証拠ではありませんか」
「……そう、か」
 お前は智多星。綺羅星のようなひらめきと知能を持つ男。
 そんなお前が、山賊の参謀などに収まっていてよいものなのだろうか。お前はそれに満足しているのだろうか。お前にはもっと相応しい場所があって、お前も本当はそこに行きたいんじゃないか。俺がそれを引きとめてしまっているのではないかと、俺は、それが怖い。
「そんな難しい顔をなされて、晁蓋様らしくありませんよ」
 背伸びをしたお前は、くしゃりと俺の頭を撫でる。昔とまったく変わらないその所作。
 お前は変わらない。あの頃から、ちっとも。
 科挙を受けるのをやめたのだと俺に告げたあのときと、何も。
「貴方はもっと不遜な顔をなさっていてください。そのくらいが丁度良いのです」
「……ああ」
「貴方はこの梁山泊の頭領なのですから」
「……」
 なあ呉用、お前にとっての俺は価値ある男か?補佐して育て上げる、傍にいて見守る、その全てに相応しい人間か?俺はここにいてよいのだろうか。俺は頭領に相応しいのだろうか。俺は、俺は、俺は、俺は、
「貴方は私の頭領なのですから、そのような顔なさらないでください」
「!」
 俺が悩んでいるときはいつも、お前はそれを見抜いてしまう。
 俺の求める言葉を口にして、俺をそっと包み込む。
「……お前は時々、ものすごいことを口にするな」
「そうでしょうか?」
 それに不安がないわけじゃない。言いたいことだってたくさんある。
 でも、お前がそう言うのなら。
「でも、そうだな」
 俺はお前の頭領で、お前は俺の参謀で、間違いないのかもしれない。










若くして梁山泊の頭領になったことに不安を抱く晁蓋と、それを全部見抜いてしまう幼馴染呉用。
晁蓋は呉用がどれだけ賢いかを幼い頃からずっと知っていて、憧れで、だからこそそんな人物を自分が独占していることに不安を抱いているのです。
呉用は呉用で色々悩んでいるけど、それが見えるほど大人じゃないということで。

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