小説2

□小説倶楽部長編Vの0
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「で、エータは高校どうすんだ?」
 組んだ膝の上に顎を乗せてケンカを見ていた先輩に言われ、オレは肩で息をしながら答えた。
「先輩と同じとこッスよ」
「マジで?」
 オレの言葉に目を見開いた先輩が、座っていた角材の山から飛び降りる。ちゃらん、とピアスが音を立てた。
「難しいぜー、あそこ」
「知ってるッスよ、近所だし。つーか、先輩が入れたんならオレも入れるッスよ」
「オレめちゃくちゃ勉強したんだぜー」
「オレも勉強してるッス。友達いねェから、他にすることもねェし」
「でもケンカはしてるよな」
「……高校入ったらやめるつもりッス。別に、好きなわけじゃないし」
「ふーん、ま、そうするべきだよな。うちの学校じゃ、ケンカがバレたら停学だし」
 やっぱ近いからか? と訊かれ、オレは言い淀んだ。
「いや、あの……」
 言うか言うまいか、悩む。だけど、結局入学したら言うことになるんだろう。諦めてオレは口を開いた。
「先輩が楽しそうだからッス」
 そんなオレの言葉を聴き、へえ、と声を上げる先輩。
「あんだけ荒れてた先輩が、今じゃ楽しそうに高校の話をしてるじゃないッスか。沸点も低くなったみてェだし」
 オレがあえて昔の先輩だったら怒るような言葉を口にしても、先輩は頓着なく頷くだけだった。
「まーな」
「だから、オレも思ったんス。先輩の高校に入ったら、やり直せるんじゃないかって」
 やり直したい。全部、何もかも。オレが言葉の裏に秘めたそんな意味に、果たして先輩は気付いたのだろうか。
「だから、同じ学校に入ろうと思って」
 やり直せると、そう肯定してほしい。思わず口調が強くなっていく。先輩はそんなオレの顔を覗き込み、ぽんと背中を叩いた。
「やり直せるかは分かんねーけど、変われるのは確かだな」
「……マジッスか」
「ま、変わる気がなきゃ変われねーとは思う。でも、エータがそんだけ変わりたいって思ってんのなら、変われるだろ」
 励ますような言葉。昔の先輩なら、絶対に言わなかった言葉だ。オレも、この人みたいに変われるかもしれない――。そんな期待に胸を膨らませるオレを見て、でも、と先輩が付け足す。
「オレが変われたのは、学校の力っつーか、仲間がいたからっつーか」
「……仲間?」
「そいつらがいたから、オレは学校に行く意味ができた。それに、そいつらに迷惑掛けたくねーから、ケンカも減った」
 照れくさそうに頭を搔いて、先輩は笑った。
「エータも来るか?」





「小説倶楽部、っつーんだけどな」



 
 

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