小説2

□馬鹿な真似はやめてかわいそうなぼくを抱きしめてよ
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 慧の部屋で飲む約束をしていたのでなけなしのお金で一升瓶を買って慧の部屋に行った。
「慧、僕だよ」
 部屋の前に時間どおりに着いた僕は、彼の部屋のドアをガンガン叩く。返事なし。時間にだらしのない彼のことだから、まだ外をうろついているのだろうか。
 困ったなあ、と何気なくドアノブに触れたら、ガチャリ、と部屋のドアが開いた。
「あれ?」
 そのまま部屋のドアを開けて、ひょい、と中を覗き込む。薄暗い部屋。戸締まりもせずに出かけたのだろうか。まあいい、中で待たせてもらおう。
 下駄を脱いで揃え、狭い部屋の中に入る。と、僕は誰かの気配に気付いて眉を寄せた。部屋の灯りを点ける。
 部屋の真ん中で、慧が、首を吊っていた。
「!? 慧!?」
 さすがの僕も驚いて、慧の体をがくがく揺する。まだ脈はある。急いで台に上り、携帯している小刀を取り出すと、縄を根元から切る。
 ガタン
 縄が切れて、慧の体が畳の上に崩れ落ちる。僕は慌ててしゃがみこむと、彼の首に巻き付いていた縄をほどいた。
「……慧、意識はある?」
 ぺちぺちと慧の頬を叩くと、彼はうっすらと目を開ける。
「……なんだ、お鶴か」
「なんだじゃないよ、何してるの」
「……」
「慧?」
「……さあ、何してたんだろうな、俺」
 慧のか細い声が聞こえるように、紫色をした唇に耳を寄せる。すると、だらりと下がっていた慧の腕が僕の耳を引き寄せて、口付けた。
「何となくな、嫌に、なっただけだ」
「……馬鹿」
 自分より大柄な慧の身体を抱き締めて、僕は、繰り返した。
「馬鹿」


馬鹿な真似はやめてかわいそうなぼくを抱きしめてよ






初BL銘治。
病みコンビですが厭世観は慧の方が強そう。
お題は言葬さんからお借りしました。

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