小説2

□孫策と周瑜が温泉でらぶらぶしているだけの話
1ページ/1ページ




「温泉が湧いたとは聞いていたが、まさかここまでだとはな」
 江東のとある山の中。
 周囲に誰もいない森の中の少し開けた場所、眼前に広がる温泉と湯気を見ながら、孫策は上機嫌な声を上げた。
「休息と称して来ただけの甲斐があったというものだ。そうだろう、公瑾」
 彼に話を振られて、隣に立っていた周瑜は、「ですが……」と困った顔をする。
「私を連れてくる意味があったのでしょうか、伯符様」
「とは?」
「伯符様だけでなく私までもが留守にして、もし何かあったら……」
「まだそれを言っているのか」
 周瑜の言葉に、呆れたような顔をすると、「いいか」と孫策は腕組みした。
「江都には、黄蓋たち父上の代からの将軍たちが目を光らせている。万が一何かあったとしても、的確に対処できるだろう。……それとも、黄蓋たちの実力を疑うのか?」
 意地悪く言われて周瑜の眉が八の字を形作った。
「そういうわけではございませんが、」
「だが、何だ?」
「伯符様ともあろう方が少数の供のみでこのような山奥に来られては、敵の刺客を呼び寄せているようなものですよ」
「私に何かあったとしても、江都には権がいる。……それに、公瑾、お前が守ってくれるのだろう?」
「……当然ではありませんか。我が命に替えてでも、貴方の命は守り通してみせましょう」
「ならよいではないか。堅いことを考えるのはなしだ。温泉に浸かりに来たのだから、目的を達成するぞ」
 言うが早いか、孫策は身にまとっていた服の帯を弛め始めた。いまいち納得がいかないながらも、それに続いて、周瑜も衣服を脱ぎ始める。すると、それを見ていた孫策は、あてが外れたような声を出した。
「借りにも想い人の前だ、肌を見せるのに少しくらい恥じらってみたらどうだ?」
 それに半眼で応えて、周瑜は服を脱ぐ手を止める。
「何を期待していらっしゃるのですか。私は生娘ではございませんよ。それに第一、私の裸など飽きるほど見ていらっしゃるではありませんか」
「それはそうだが……」
「だが?」
 言い合っているうちに、両者とも衣服を脱ぎ終わった。どちらからともなく温泉に爪先を差し入れ、ほう、と息を吐く。
「かなり水温は高いようですね」
「そのようだな」
 やがて肩まで浸かった二人は、湯の中でのびのびと手足を伸ばした。
「貸切というのも、なかなか良いものですね」
 言いながら、周瑜は湯に広がった髪をかき上げる。孫策は目を細めた。
「湯浴みするお前の美しさはまるで水浴びする天女のようだな、公瑾」
 冗談とも本音とも取れる彼の言葉に、周瑜はくすりと笑う。
「伯符様とでしたら、羽衣など隠さずとも永久に傍におりますよ」
「言ったな? では、一生私の傍から離れてはならぬぞ」
「ええ。誓いましょう」
 交わす言葉が、次第に恋人同士のそれへと移り変わっていく。孫策がそっと周瑜の腰を抱き寄せると、周瑜が声を潜めた。
「いけませぬよ、伯符様。このような、誰が見ているかも分からぬところで」
「私の裸を見る不敬の輩などいるまい。それに、いたとしても、どうせお前の裸身を狙った不届者だ、見せ付けてやろうではないか」
「お戯れを」
 やんわりと言って、周瑜が孫策の手から逃れる。許さぬとばかりに、孫策がそれを追った。
「先ほど永久に私の傍にいると言ったのは誰だ?」
「まさか本気でいらっしゃるのですか?」
 周瑜の声に、孫策にしか分からぬ程度の困惑が混じる。それを愛おしく思いながら、孫策は「公瑾」と低い声で周瑜を呼んだ。
「傍に来い」
 逆らうことの不可能さを悟り、周瑜は覚悟して彼の元に戻る。
「……伯符様」
「先ほどの言葉は冗談だ。離れるな、それだけでよい」
 ぴったりと周瑜に寄り添った孫策の指が、湯に流れる周瑜の髪を優しく梳いていく。周瑜は軽く目を閉じ、彼の肩に寄りかかった。





「……と、こんなものか」
 先ほどから物凄い勢いで竹簡に文字を書き込んでいた孫尚香は、額の汗を拭って顔を上げた。
「策兄と周兄が湯治に行くと聞いてから二刻、我ながら勢いというものは止まらぬな」
 ふふふと満足げな笑いを上げて、孫尚香は竹簡を窓際の日の当たるところに置く。窓際の机には、同じように物語を書き記したばかりの竹簡が大量に広げてあった。
「この情報が広まれば、同じようなネタを書く人間が山ほど出るに違いない。大事なのはスピードだな」
 湯治に行った孫策と周瑜が、この竹簡に書かれたような状況を繰り広げているのか、それとも二人の間には何もないのか。
 それを知るのは、本人たちしかいない。









と、勢いで書いてみました「温泉でいちゃいちゃする策瑜」。
ちょっとふざけすぎたかと思ってオチをつけてしまいましたが、この時点での尚香の年齢に対するツッコミはなしの方向でお願いします。
恥じらわずに服を脱ぐ周瑜様と「天女のようだな」を書きたかっただけです。楽しかったです。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ