小説4

□小説Wのエピローグ
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「お疲れ様です、山本さん」
 全てが明らかになった後。
 呆然としている近藤を部屋の中に残して図書室へと移動した姫璃たちは、そう山本に声をかけた。
「突然お呼び立てしてすみません」
 姫璃の言葉に、真紅から渡されたコーヒーを飲んでいた山本は、「いいや」と首を横に振る。
「新聞部から取材って聞いた時点で、このことじゃないかと思っていたんだ」
「そうですか……。そうなることを見越して、手紙を送ってきたんでしょう?」
 姫璃のまっすぐな視線に、山本は「ああ」と頷いた。
「そうだ。俺は全てを明らかにしたかった……。山本に、復讐したかった。だから手紙を送ったんだ」
「でも、全てが明らかになるということは、山本さんの過去も明らかになるってことじゃないですか。それでよかったんスか?」
 話を聞いていた忍が、身を乗り出して尋ねる。
「オレは……オレなら、絶対秘密にすると思いますけど……」
「そうだな。オレも、麻薬から抜け出たときは、ずっと秘密にしておこうって思ってた」
 でもな、と山本は続ける。
「近藤が知っている限りは、俺は、あの過去と決別できない。だから、どうにかして、近藤思い知らせてやる必要があったんだ」
「それで、手紙を……」
「ああ。もし誰も気に留めなくても、近藤だけが意味を知ればいいと思ってやった。全てが明るみに出れば、近藤も免職になるだろう。俺と近藤は、互いの弱味を握り合っている。それをハッキリ知らせたくてな」
「そうですか」
 姫璃は山本の視線を捕らえ、尋ねた。
「――復讐は、果たせましたか?」
 山本は、「――そうだな」と遠い目をして答える。
「半分は、果たせたな」
「残りの半分は?」
「一生果たせないだろうな。果たしたい相手は――昔の、俺だから」
 山本の言葉に、その場が沈黙に包まれる。
 それを破ったのは、絵梨の一言だった。
「私、今回の件、新聞にするわ」
 その言葉に、「えっ」と一同が息を呑む。
「勿論、全部は記事にしない。あの手紙が近藤先生宛だったってことだけ記事にするの」
「そしたら……」
「そう。そしたら自ずから、過去を洗う人間が出てくるはず。山本さんはもう大麻はやめたみたいだから事情聴取程度で済むだろうし、近藤先生が社会的地位を失うだけよ」
「児島さん……どうして……」
 姫璃が困惑して尋ねると、「決まってるでしょ」と絵梨は姫璃を見た。
「近藤は、黒明さん、貴女を人質にした。そんな卑劣な人間を、この学校に置いておくわけにはいかないわ」
「……意外と正義感が強いんですね」
「ジャーナリズムには正義感はつきものよ。最近忘れられてるみたいだけど」
 いいですよね、と絵梨は山本に了解を取る。山本は首を縦に振った。
「ああ。是非そうしてくれ。俺はそのために手紙を送ったんだから」
 そう言って、山本は立ち上がった。
「長居してしまったな。俺はそろそろ帰るよ」
「そうですか」
 相槌を打って、姫璃はにっこり微笑む。
「小説倶楽部には、園芸部の部員もいるんです。山本さんにぜひ会いたいって言ってましたから、また遊びに来てください」
「ああ……ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ、来てくださってありがとうございます」
 見送られて、山本が図書室を出て行く。
 それを見送った姫璃は、振り向いて真紅を見た。
「真紅先生、この話は」
「――内密に、だろ? 分かってるよ」
 それから、ちょいちょいと姫璃を招き寄せる真紅。
 姫璃が何事かと近寄ると、真紅の節くれだった手が、ぎゅーと姫璃の耳を引っ張った。
「危ないことはするなと言っただろう」
「いたたたたたたた。でも、哀野がいたから大丈夫でしたよ」
「それは結果論だろう? 間に合わなかったらどうしたんだ」
「えっと……それは……」
「君はよく考えているように見えて実は何も考えていない人間なんだから、もう少し考えろ」
「な、何ですかその言い草は! ひどいですよ!」
 カウンターを挟んで、言い合う姫璃と真紅。
 それを見ていた絵梨が、カメラを構えてそんな二人の様子を撮影しようとして、それから――やめた。
「これは冗談にならなさそうだから撮らないでおくわ」
「そうしてください」
 是非とも、と忍は頭を下げる。
 そんな彼に、絵梨はにこやかに言った。
「でも、本当に、小説倶楽部っていいわね――。羨ましいわ」
「入部したらどうですか?」
「やめておく。私は平穏を壊しそうだから」
 でも、と絵梨は付け足した。
「そんな素敵な小説倶楽部を、今度学校新聞で取材させてもらうわね。片隅の部活にしておくには勿体ないから」
「片隅で好き勝手やってるんだから、放っておいてくださいよ」
「そういうわけにはいかないわ。全部が明らかになったら、ちゃんと黒明さんの手柄だって載せておくから」
 ね、と絵梨は邪気のない笑顔で言った。
「なんか、私、小説倶楽部のこと大好きになっちゃった!」











あとがき。

のびのびになっちゃってすみません☆ 「セピアに滲む」完結しました!
この話はですね、えーっと、もともと「姫璃と忍と透夜の三角関係が新聞部のサイトに載る」という設定から始まりました。最初は三人へのインタヴューとかをするつもりだったんですけど、それじゃ面白くないなと思って、いつものパターンに。
忍くんに出番を!という声が高かったので忍くんに出番を与えてみました。忍くん視点は非常に書きやすいです。
そして、新たに登場した新聞部副部長の児島絵梨ちゃん。この子は典型的な新聞部のイメージを詰め込んでみました。新聞部部長とは恋人同士という裏設定も。このカップルもまたちょこちょこ出していきたいなと思います。
「セピアに滲む」は全体的に楽しんで書きました。本の話をあまり入れられなかったのが心残りですが。
次の長編は、姫璃が修学旅行で不在の間の、18歳組に焦点を当てた透夜視点の連作短編にしようかと思っています。ヤマちゃんも出すぞー。ー。

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