小説4

□お似合いですよ。
1ページ/1ページ




「ちわーッス」
 読みかけの「ポストガール1」を手に図書室のドアを開けたオレに、カウンターの中にいた真紅先生が、「しぃ」っと人差し指を唇に押し当ててみせた。
「どうかしたッスか?」
 尋ねると、すぐそこのテーブルを指差して真紅先生は言う。
「姫、寝てるんだ」
「マジッスか?」
 覗き込んで見ると、成程、姫先輩はぐっすり眠っていた。顔の横には、八杉将司の「光を忘れた星で」が置いてある。
「さっきまで読んでたんだけど、気付いたら寝てたんだ。姫が外で寝ることなんて滅多にないから、余程眠かったんだろうな」
 優しげな瞳で姫先輩を見ながら、微笑む真紅先生。姫先輩の向かいに腰掛けたオレは、持ってきたC.C.レモンを一口飲んで、本を開いた。
「真紅先生になら寝顔を見られてもいいってくらい、姫先輩は心を許してるってことッスね」
「照れるな、その言い方」
「真紅先生、姫先輩と付き合おうとか思わないッスか?」
 突然の質問に、真紅先生は目を見開く。
「それは……どういう意味だ?」
「言葉通りの意味ッスよ。真紅先生と姫先輩、お似合いだと思うッスけど」
「からかうのはよしてくれ」
「本気ッスよ」
 そう、オレは真紅先生をからかっているわけじゃない。心の底から、二人はお似合いだと思っているのだ。
「だって、二人とも本が好きだし、意気も合ってるし、美男美女だし」
「俺とお似合いだなんて、姫に悪い」
「そうッスか? 姫先輩も嬉しいと思うッスけどね」
 オレがそう言ったところで、「うーん」と姫先輩がうなり声を上げる。そして、ぱちり、と大きな目が開いた。
「あれ、嫌だ……眠ってた?」
「眠ってたッスよ。寝不足ッスか?」
「昨日夜中まで起きて読みかけの本一気読みしてたからかな……」
「多分それッスね」
「変な顔して寝てなかった?」
「腕で顔隠れてたから見えなかったッスよ」
「よかった……」
 ほっと息を吐いて、椅子にもたれる姫先輩。頬にはカーディガンの跡が付いていた。
「姫、目ざましにレモネードでも飲むか?」
「はい、お願いします」
 レモネードを持った真紅先生がこちらに歩いて来て、姫先輩の前にグラスを置く。それから、とても自然な動作で、姫先輩の頬を撫でた。
「カーディガンの跡、付いてるぞ」
「え!? 本当ですか!?」
 それに慌てながら、自分の頬を抑える姫先輩。
 何と言うか。
 オレが知らないだけで付き合ってるんじゃないか、この人たちは。







真紅→姫璃に気付かない鈍感栄太くん。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ