小くら@

□ちぇりー・ちぇりー・ちぇりー
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「ふと思ったんだけど、」
「どうしたんですか?」
「ヤサくんって、さくらんぼ、舌で結べる?」
「……また唐突ですね」
 いつも通りの部活中。
 ウォークマンを耳に、某マフィアもの少年漫画のキャラソンを聴いていた白美は、突然そう口を開いた。
 本当に、突然である。
「う〜ん、なんとなく気になって」
「どうなんすか?」
 その横でDSテトリスをしていた光太も、興味津津にヤサの顔を見る。
 一気に視線を集めたヤサは、いつものノリでそれに応えた。
「別にンなコト訊かなくても、オレとキスすりゃ分かる話じゃねーの?」
「ヤサくんとのキスは、部長くんの為に取っといてあげなきゃ駄目だもの」
「……ヒメ、ほらこっち向−けーよー」
「断固拒否です」
 ギャー気持ち悪い!と容赦なく叫んで、ヤサの悪乗りを一刀両断する姫璃。
 椅子三つ分彼女がヤサから離れたところで、顔を引き攣らせて見守っていた真紅が口を挟んだ。
「百万が知りたいのは、舌で結べる人間は本当にキスが巧いのか?ってことであって、ヤサがキスが巧いかじゃないんじゃないのか?」
「え、マジで」
「うん。ヤサくんがテクニシャンなのは前提だよ〜?」
「テクニシャンて……」
「つかなんでんな前提あるんすか?」
「手戸は知らない方が良いこともあるんだよ」
 脳内に菌が生息している人たちだけが分かれば良い話だから。
 自分がその範疇にあることを除外しつつそう言って、姫璃は自分の唇に中指を当てた。
 と、ヤサが真紅に話を振る。
「センセーは?」
「……俺か?」
「そ。結べんじゃねーの?」
 こちらもキスが巧いことは前提らしい。
「なんかさー、センセーって器用そう。つーか経験豊富だろ?」
 ほぼ断言のように言われるが、真紅としては迂闊なことを言える立場ではない。
「……やったことなんてないからな」
「キスを?」
「いや、光太、それはない。この歳でキスがまだだったらさすがに男として悲しい」
「センセーなんてむしろ、二桁行ってそーだよな」
「……」
「図星ですね〜」
「まあ、驚きはしませんけど」
「俺は今まで、生徒にそういう目で見られてきたわけか……? 姫にまで言われるとは思ってなかったな……」
「別に軽蔑はしませんよ。個人の自由ですし」
「とか言いつつ視線が冷たいヒメであった」
「言うな落ち込むから」
 そして勿論墓穴を掘る。
 本気でへこむ彼をケラケラ笑って見ていたヤサは、意地悪気に光太を見た。
「ま、コータとはちげーもんな」
 明らかに上から目線のそれに、思わず光太も言い返す。
「じゅ……純粋なだけっすよ! 誰かれ構わずなヤサさんよりは絶対マシっすから!」
「黙ってろチェリー」
「高一男子の半分はチェリーだあああああああああ!!!!!!!!!」
 図星を刺されたからか、それとも何かのスイッチが入ったのか、場所を考えずに絶叫する光太。
 真理ではあるが、学校の図書室で叫ぶことではない。
 しかし、勿論小説倶楽部メンバーは慣れっこなわけで。自分のコーヒー、そしてついでに姫璃の分も淹れながら、どうにか立ち直った真紅は言った。
「ま、光太ならそう悲観する必要はないだろ」
「むしろヒメとか、面倒だからって断ってたらオールド・ミスとかありそうだよな……」
「失礼ですよ! その場合はその場合で自分で選んだんだから結構です!」
「その場合はセンセーが貰ってくれんだろ?」
「なっ……! ヤサ!!」
「誰もわたしの心配はしないんだね〜」
「……白美先輩はなるようになりますよ」(哀野、頑張れ!)
「そうっすよ。もしかしたら気付かないだけでこっちを見てる誰かがいるかもしれないっすし」(てかいますし)
「そうかな〜? 私みたいな重度の歴女腐女子を良いって言ってくれる人、いるかな……」
「自覚してるんですね!」
 そうして時間は過ぎていく。



 後日白美がさくらんぼを部室に持参してきたのは、また別のお話。










―アトガキ
あ、小説倶楽部では普通に下ネタが出てきます。
でもリアル高校生男子よりはマシです(当社比) ヤサが暴走しさえしなければ。
しかし何と言うか。
短編一本目がこれです。

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