イタナルコ編

□「あ」から始まる30題
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 月夜の晩に訪れる貴女は、俺の唇をやんわりと指で辿って甘いキスを一つ落として囁いた。
「あたしを近づけたくないのならば、窓はちゃあんと閉めておくんだってばよ?」
 クスクスと小さく笑いながら目を細める月の化身のようなその女性は人間ではない。闇の住人。人の生き血を糧とする、俗に言う吸血鬼だ。
「なんで? オレは貴女が来てくれるのが嬉しいのに?」
 誘うように腕を伸ばすと、仄かに低い体温がするりとオレを抱き込んだ。
 オレがその女性の背に腕を回して見上げるように顔を覗き込むと、少しだけ困ったような表情で小首を傾げた。
「イタチ、自分の一族の職業、忘れたってば?」
「吸血鬼ハンター?」
「なんで、そこで疑問系なんだってばよ」
 間近で覗き込んだ、彼女の瞳にオレの顔が小さく写りこんでいる。
 身体を捩って、オレは伸び上がり、今度は自分からキスを仕掛けた。ふっくらとした肉厚の唇を堪能するかのように舌を這わせて深く情熱的なキスをする。
「初めて・・・だったんだ」
 官能的なキスに酔ったような、潤んだ紺碧の虹彩を覗き込んでオレは告げた。
「オレ自身を見てくれたのは、あなたが初めてだったんだ」
「・・・・・・」
「恋をしたのも初めてで・・・・・・でも、オレからは接触できなくて・・・・・・条件を持ち出すしか方法が無かった」
「・・・・・・吸血する相手をオレだけにしろ、だったかな? ・・・・・・あれには、驚いたってば」
 腕をその白い首筋に絡めて引き寄せると、再びキスをする。
「貴女の唇が、他の誰かに触れるのが許せなかっただけだ」
「・・・・・・」
「ナルト、愛しているんだよ? オレは」


 夜のひと時の逢瀬。夜明けを迎える前に首筋に小さな噛み跡を二つ残して消えていく。 彼女は律儀に約束を守って、オレ以外の人間から吸血しなくなった。だというのに、ほんの少量しか血液を摂取せずに姿を消していく。吸血鬼として最低限、生き延びるだけの糧。死なせたくないからと、泣き笑いの表情で、問いかけたオレにそう返した。

「あたしも、あんたを愛しているんだってばよ」
 眠りに落ちる間際にのオレに囁いた言葉。
オレとナルトの関係を一族に知られればようなるか。

 徐々に明るくなる世界の夜の名残が「嵐がくるよ」と囁いたのを聞いた気がした。




設定
*吸血鬼:ナルコ
*吸血鬼狩人:イタチ
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