イタナルコ編

□無敵の彼女(〜ブルーフォックス〜)
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プロローグ

 全てが作り物。笑顔で何者をも流してきた。
 向けられる称賛。上品な所作で応対し、乾いた心のまま、鑑を映すように世間を映す。 クリスマス・イブのパ−ティに招かれた少年の両親は、主催者と談話していた。
「沢山、だね? 兄さん」
「そうだね」
「なぁ、あそこのクリスマス・ツリー、見てきていい?」
「いいよ」
 少年は、歳の離れた幼い弟に手を引かれ、パーティ会場に数カ所設置された、きらびやかに飾りたてられているクリスマス・ツリーへ足を向けようとした。と、急に周囲がざわめく。
 −−− まぁ、あのブルーフォックスが来たようだわ。
 −−− では、彼に選ばれる幸運な方がこの会場に居ると言うことだ。
 −−− 彼の望みを叶える代わりに、彼の力を借りることが出来る。ギブアンドテイクだけど、彼の予測は百発百中なのよね?
 好奇心に浮き立つ周囲。
(『ブルーフォックス』?)
 ざわめきが一際大きくなる。彼らの視線を追うように、少年は伸び上がってその方向を見た。その先に、黒い礼服に身を包んだ、目元を仮面で隠した金髪の青年が一人居て、何かを問答している様子だ。が、会場の者たちがさり気なく注視するなか、魅惑的な笑みを浮かべて握手を交わし、会場の者たちに優雅な所作で一礼して後にする。青年が会場に姿を見せたのは五分に満たない短い時間だったのにも係わらず、圧倒的な存在感を印象づけた。
「……兄さん?」
「あ、ああ悪い。じゃあ行こうか」
 少年の中にも、金色の残像を残し……今日という日を刻印する。
 その日が、少年にとって、家族と共に過ごした最後のクリスマス・イブだった。翌年、元々折り合いの悪かった親子の関係が悪化し、少年は全てを振り捨てて家を飛び出したのである。
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