イタナルコ編
□「あ」から始まる30題
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G 温かい場所なら知っていたけど
遠い記憶の隅に、揺れる花の嵐のような桜の群生した丘を隠れ家にしていた。
木ノ葉隠れの里の領域内ではあったので、とりあえずは問題ない場所だ。
あたしは春になると一人で足を何度も伸ばしては、嫌なことは全てそこではき出すことにしていた。
そんなある日の事だ。
暗い表情をした年上の少年を見かけた。
余りにも不景気な様子だったので、気分転換に一人の花見に誘った。
「ヤナ事、ぽーん、なの」
「……辛いことを忘れるため?」
「うん。ナルのとっておき。 ……おにいさんは特別」
「…………」
「やな事、ずっとココにあったら、沢山になって、とっても泣きたくなる。でも、泣けない人、沢山いるね? ……おにいさんもそうなんでしょ」
「……そう、かもしれないな……」
「全部、ポンなの。誰もいないから、いいの」
「……だから、連れてきたの?」
あたしは問われて頷いた。
少年ははじめは戸惑っていたけども、そろそろとあたしの頭に触れて撫でた。
「……あったかい」
あたしの言葉に僅かに驚いたような表情だった。
「……お兄さんが、怖い人じゃなくて良かったってば」
遠い花色の記憶。
彼が誰であるかをあたしは今は知っている。
彼が何を思い煩っていたのかも、知ることとなった。
あれから彼が里を離れるまで…何度かこの場所で会うことがあった。
何かを交わすとか、そういう事はなく、ただただ隣に座ってその仄かな温もりを大事に過ごした。
今は再び一人だ。
成長し、夢を叶え……そうして、この季節が巡ると、一人で花見をする。
暖かい場所をしっていたけど……。今は一人、花嵐を遠く見つめている。
幻の温もりを感じながら。
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木ノ葉の忍:ナルコ
彼岸の人:イタチ