イタナルコ編

□「あ」から始まる30題
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E 



 ほんの少しの寄り道。
いつもだったら、真っ直ぐ家に帰っている。
 だけど、火曜日の六時に本屋の前を偶然通るフリをして、そっと盗み見るの。

 初めて見かけたときは驚いた。
黒髪で長髪。
案外この髪型が似合う男性は少ない。
 あたしの高校の一学年上の先輩に一人いるけども、彼以外で似合う人は初めてだった。
 初めは女性なのかな?と、失礼ながら思った。
でも、店員と話している声が聞こえて、ああ男の人なんだって気がついて、興味を惹いた。
 毎週この曜日だけ、名も知らない憧れの人を盗み見て、幸せになる。
 向こうはきっとあたしを知らない。
 沢山の異性に注目されているだろうし、思いを告げられたのだろうから。
 見ているだけで胸がいっぱいで、思わず自然に顔が綻ぶの。
 さり気なく通り過ぎるのを意識して、ちらりと見れるだけでその日一日、幸せで締めくくる。
だけど・・・ある日を境に、その青年を見かけることが無くなった。
 もう、何度も通っても、火曜日の六時に本屋の向こう側で見かけた面影は見かけなくなって。
 自分が思った以上に落ち込んでいるのを自覚する。
 憧れに憧れた?
 始まる前に、諦めていた。
 見ているだけで、満足していたから?
 近くのケーキ屋でシュークリームをふたつ買って、重い足取りで家に帰る。
 ・・・・・・が、家に帰る途中に、隣町の問題児に絡まれた。知的眼鏡のお姉様系美人さんと、大男とチャラ系ヤンキー、んでもって何でかいつもイチャモンつけてくるビジュアル系の四人組。
 あたしより、数倍以上頭のデキがいいくせに、何故絡む? 思わず深い溜息をついた。
「で、あたしに何の用だってばよ?」
 この四人の内のヴィジュアル系男子高校生は、元小学校の同級生だ。名をうちはサスケという。 あまり、接点は無いはずだが、ご近所の海野イルカ兄ちゃんの勧めで剣道に通っていた際、男子の部にコイツが居た。見ての通り容姿がすこぶる花丸付に良いせいで、常に女子に囲まれていたから、話も余りしたことが無いけども?
「確認がしたかっただけだが」
「・・・・・・何を?」
「木曜日の夜七時に、喫茶・房画でバイトしているか?」
 あたしはキョトリと首を傾げた。
「・・・・・・なんでお前が知っているんだってばよ」
 肯定すると忌々しげに舌打ちされた。聞いといてその態度はどうかと思うってばよ、うちはサスケ。
「・・・・・・たしか、お前・・・生活費稼ぐために、バイトをしていたんだよな?」
 確認するような問いかけに、事実だったので頷くが・・・あたしの事情を接点が殆ど無かったはずなのに把握しているサスケに、思わず顔が引きつった。
「土日にバイト、入れているか?」
「今探しているトコ。今までバイトしてたトコが期限が切れたので、今は空いてるってば」
「それだけだ」
「・・・・・・は?」
「いくぞ、香燐・重吾・水月」
 それぞれ、返事をしたまま帰っていくのをあたしは謎のまま見送った。
「ナンダッタンダッテバヨ、アレってば」
 サスケの謎の言動の答えは数日後。
 木曜日の七時から十時までの二時間、喫茶店でバイトした帰り、聞き覚えがある声に呼び止められた。
「・・・・・・うずまき、ナルトちゃん?」
 ギョッとして振り返ったら、あの時の青年。もうここ暫く見かけることが無くて、諦めていた相手だった。こんなに近くて・・・しかも名前を呼ばれて、硬直していると、柔らかく微笑まれた。
「はじめまして」

はじめの挨拶が一番最初。互いに緊張気味で少し話してそうして、笑った。だって、彼も・・・イタチも同じだったから。あたしが火曜日そっとイタチを見ていたように、会えるならもしかして、と、イタチも木曜日の七時、この喫茶の窓辺を通り過ぎながら見ていたんだって。


 今は、互いに一目ぼれ同士で手を繋いでいる。言葉も無く、ゆったりと時間を過ごしている。



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