イタナルコ編

□「あ」から始まる30題
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D


両手の中に掛かる重みが、じわりと自身の心に降り積もる。
 だんだん冷えていく体温が絶望を招いているようだ。
「死んじゃったね」
 軽い声が頭上から響く。それを無感動にオレは見上げた。
「なに? 怒りもしないんだ」
「怒って彼女が帰って来るとでも?」
「・・・・・・禁術使えば還ってくるかもよ?」
 軽い調子で毒を吐いたその声の主を無視して立ち上がる。
 羽根のように軽いその体が、彼女の歩いた道すら曖昧にする。
「お前はかわいそうなヤツだ」
 抱きしめた腕が震える。
先ほどまであった温もりが体温を奪っていくのが自覚できて、泣いてしまいたかった。
「・・・・・・哀れむのか? お前が・・・お前が!」
「ああ、哀れんでやる。人として大事な事を見失っていることにすら気付かない相手に、オレが本気になるとでも?」
 嘲笑が憎悪に変わった。
殺気がそのまま武器となり、抱え込んだ彼女の身体ごと、オレの身体を貫いた。
 オレは・・・・・・それを待っていた。
思わず口元が柔らかく微笑む。
「人を愛しいと思う心が欠落した、マダラ、お前にはこの心はわからない。道具のように思って利用していたオレの反逆がそれほど許せないか?」
 瞬間の怒りの衝動で壊してしまった玩具。
唖然と折り重なるように倒れこんだオレの上に雨が降る。
 渦を描く仮面の奥の瞳が動揺しているのを見て、満足した。
 それを知り、忌々しげに倒れ伏したオレを蹴りつけるとその場を後にする。

 雨が降る・・・・・・雨が降る。

 オレも先に逝った彼女の上にも雨が降る。
 脳裏に光の化身のような気配が囁く。
 感情が無いといわれ続けた己が嘘のように素直に慣れるのが笑えた。
 雨が全てを隠してくれるからだ。
 彼女を守れなかった自分の不甲斐なさを責めるために、今の雨の中でなら泣ける気がした。

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+暁イタチ
+人柱力:ナルコ
設定:彼岸へと旅立つ二人。
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