イタナルコ編

□「あ」から始まる30題
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C


「羨ましい・・・・」
 目の前の少年が嘆くのを見ながら、あたしはポツリとそう零した。
「えっ?」
 聞きとがめたのはサクラちゃん。十二歳の時から今までずっと共に歩き、先を見据え・・・今に至る。
 嘆いているのは、片手の指の数に満たない間傍を離れていた、馴染み深い相手だった。
 うちはサスケ。
 そして、彼が縋って泣いている相手は、彼の兄であるうちはイタチだ。
 かの者は、数年前にサスケと戦い、病でもって夭逝した。その亡骸を所有したのは、敵の勢力の黒幕とでも言える男だ。
 処分されたか利用されたかと思っていた、その亡骸が、まだ残されていると知ったとき、取り戻すために力を貸してくれと、その身体が無事に保存されているのを知ったとき、あれほど嫌悪し敵対すらした木の葉隠れの里に・・・・・忍たちに土下座までしたのだ。
 サスケの心を救うためにどれだけの人たちが泣いたのだろう・・・動いたのだろう。サクラちゃんはサスケが大好きで、あたしに一生のお願いとさえ言った。
 サスケが音の里から脱出する際、連れていた相手は・・・戦うことも、共に歩くことすら承諾した相手も・・・サスケの心を揺らすことは無かった。揺らせなかったとも、言えた。
「過去も現在も・・・・・・多分未来すらも、サスケの心はイタチ兄ちゃんのものだってば」
 溜息一つで聞き返したサクラちゃんに、あたしはそう返す。
「・・・・・・兄ちゃん?」
 聞き返したサクラちゃんに人差し指を立てて笑みを浮かべる。
「うちはは・・・あの一族は、自分の血族にだけ多くの感情を揺らす。愛憎すらも、全て」
 あたしの言葉にサクラちゃんは僅かにしずんだ表情をする。
「一握りの例外が居て、それがぶつかった。絶対的な血族主義のうちはマダラという、全ての根源と、その血族に居ながらも、真逆を行ったうちはイタチと」
 泣き続けるサスケの傍に寄り、あたしはその肩に手を置いた。
「・・・・・・もう一度だけ聞くってばよ? サスケ」
 あたしの言葉にサスケは肩を僅かに揺らす。
「ホントウの意味で、あたしの手を取る意思はあるってば?」
「・・・・・・・・・・・・」
「今の忍の世のシステムは、木の葉を憎むように出来ている。それを増長させている人たちもまた、存在する。・・・・・・木の葉隠れの里を守るには、今の忍の世のシステムを変えるしか方法が無い。互いが互いを信じあえる世が来る事を願った人が居た。己の里が平和であることを願った人が居た。木の葉隠れの里と砂隠れの里の新しい関係を夢見た人が居た。・・・・・・サスケ、お前が生き延び未来を見ることを願った人が居た」
 あたしの言葉にはじかれるように顔を上げると驚いた様子で泣きすぎて赤くなったその目を真っ直ぐ据えた。
「多くの人たちの願いがココにある。あたしは、託された者として、歩いていく。前へと」


 差し出したその手に載せられた手。押し抱くようにその手にサスケは額を寄せる。
 震える声が小さく耳朶を打った。
 あたしが強いって? 誤解すんなよ、サスケ。
 あたしは・・・ただ、全てを諦める勇気が無いだけなんだってば。
 託された願いの重さに押しつぶされないようにあがいているだけ。
 あたしが笑っているのを見るだけで、勇気がもらえるっていう人が多いから、どんな時も笑うんだ。

 過去に一度だけ、あたしを見て泣いた人が居た。あたしを思って泣いてくれた人。
 サスケ、あんたの兄ちゃん。
 全てを託すことを許してくれと、彼は泣きながら微笑むような器用なことをしたんだよ?






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