イタナルコ編

□「あ」から始まる30題
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B


 その歌を聴くのが好きだった。


 物心つくころには、既にその人は火影の地位に居た。
 母さんや父さんが言うには、二人が小さな頃には既に、今と同じようにかの人は火影の地位についていて、みんなの安寧を守っていたのだという。
 今は亡き祖父は勿論、一族の長老とも言える人に聞いたこともあるが、長老の祖父母が生きていた時代にも、里を導く今の地位に居て、姿もあの頃と寸分違わずだったという。


 忍という殺伐とした生業の頂点であるというのに、纏う何もかもが明るく暖かなもので構成されていて、紺碧の瞳が映す里の光景は、なんとも優しく感じたものだ。
 齢を重ねる他里の影たちの交代劇をどれほど見守ったのだろう。
 火影の笠に紫紺のヴェール。瞳の色しか里の者達は知らない。
 普段、火影の執務室に詰めているのは影武者であることも、常識のように皆は知っている。しかし、それを指摘しない。
 火影の地位に就きながら、実務は補佐官に代々選ばれる四名でこなす。

 出会ったのは、夕暮れに染まる火影岩の上だった。
 四代目火影の顔岩の上。風のように・・・森の葉擦れの様に・・・高い透明度の声で歌っていた。
 歳は十六程に見える。銀にも見えるほど薄い金髪に、深い色の紺碧。ミルク色の肌に華奢な体躯のその少女は、歌につられて訪れた俺に驚いた様子で目を丸くした。
 後に知った火影であること。
「威厳が無いから、伏せている」と。
 わたしは里を守るための兵器だからなぁ・・・。
 そういって笑って遠くを見つめるので、彼女を守るための付き人を志願した。

 アカデミーに入学した頃に出会って、目指した地位に就く頃には十代の半ば。

 彼女を知り、環境を知り・・・・・・壮絶なほどの孤独を知り。

 触れ合うことを教え、許し……許され。
 重ねる唇が優しい事も知る。

「愛をあげるよ」と笑って言うと、「わたしなんかを相手にしたら、呪われるってばよ?」とつれない事を返すので、思わず頬をつまんで引っ張った。
「俺はあなたの歌が好きだ。・・・・・・歌って。お願い」

 誰も回りに居ないその場で、彼女の膝枕で見上げながら請う。
 アンコールをもう一度。
 何度もリフレインしながら、彼女の慈悲が夜の闇に沈む里に広がっていくのを見つめた。


火影:九尾ナルコ
補佐官兼付き人:イタチ
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