イタナルコ編

□「あ」から始まる30題
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A

 ドキドキするのは何時もの話。出会いはほんとに些細なことだった。
 電車で友人のサクラちゃんが痴漢にあったのを目撃したあたしは、犯人をこの自慢の右腕で伸した時の事、一部始終を見ていたのだろうと思う。犯人を車掌さんに突き出すのを買って出てくれた。
 年上で、穏やかそうで・・・・・・とても綺麗な男の人。
 サクラちゃんも、捕り物を手伝ってくれたイノちゃんも、ぼうっと見とれていたっけ。
 あたしたちはその人にお礼を言ってその日は無事学校へ登校し、その人の話題で一日盛り上がったっけ。
 ただ、同時に暫くは電車通学を避けた。というのも、ああいう犯罪を犯す人たちっていうのは、自尊心が異常に強くて言いがかりをつけてくる場合があるからだ。
 サクラちゃんもその点を怖がっていたから、担任の猿飛アスマ先生に相談して、暫く通学路を変える事にした。あたしの外見が見事にココでは目立つ海外に多い金髪碧眼というものであることがあって、絶対犯人に顔を覚えられている。イノちゃんだって被害者だったサクラちゃんだって、滅多に拝めないほど、それぞれ個性的な美少女ぶりだったから、ほとぼり空けるまでは電車通学を避ける選択をした。
 二ヶ月くらい経った頃だったと思う。電車通学から自転車通学に切り替えて、それもそろそろなれた頃、肉まんの美味しい季節になったあたしは、学校の帰りにコンビニに寄って肉まんを買っていたところで視線を感じ振り返った。自転車通学のいいところは、いつでも好きなときに寄り道が出来ることだ。
「・・・・・・あ」
 店内が急にざわめいたと思いつつも不思議に思ってはいた。視線を方へ振り返ると、あの時の男の人と一緒に、よく似た面立ちの、あたしと変わらない年頃の少年が一人。雰囲気から仲の良さそうな兄弟なのだろうと思う。一人だったらあの時のお礼を直接言おうと思っていた。でも、兄弟だろうと思われえる連れが居る。それに・・・あの物腰柔らかな様子と外見を見た限りでは、大事な人も居そうだと思った。恩人ともいえる相手に、周囲の誤解を招きそうなことをすべきではない。だから、視線がパチリと合ったときに、色々言いたいこと・・・感謝を込めて深くお辞儀を一つした。
 有り難うの意味を込めて。
 あたしはそのまま、会計を済ませて肉まんを購入し終えると、このコンビニに添えつけてある、軽食用のテーブルの一角を陣取って、購入した肉まんを食べることにした。肉まんと一緒に購入した、TVガイドを広げながら、今日の番組をチェックする。自転車通学をするようになって、ここで買い食いしながら雑誌読んだり、ぼんやり道行く人を眺めたりするのが日課になっていた。と、何時ものように雑誌に視線を落としていると、目の前に影が出来て、不思議に思いながら顔を上げると、あの時の男の人がいて、その横に弟らしき少年が居る。
「・・・兄貴!」
 何を言おうかと、躊躇う様子のその人の横で、じれたような態度を見せると真っ直ぐ、その人の弟らしき少年があたしを見た。
「うずまき、ナルトだろ? 木葉高校一年の」
「・・・・・・」
 何故、あたしの名前を知っている? それに驚いて少年とその兄だろうと思われるその人を見比べた。
「あんたがここによく出入りしているのは友人に聞いていたからな、知っていた」
 あたしは、怪訝そうに少年を見た。何故、あたしの動向を気にする必要がある?
「・・・・・・あたしに、何の用があるんだってばよ?」
 疑問を素直に口にすると、少年は忌々しげに舌打ちすると、肘で隣に立つ兄の脇を突いた。それに押されるようによろめいたその人は、耳まで朱に染めて僅かに俯きながら一言あたしにいった。
「・・・・・・友達になって欲しいんだ」
 ようやっと言ったその言葉を聴いて、横にいた弟らしき少年は、力いっぱいその人の頭を叩いた。
「俺に、ここまでさせといて・・・・・・やっと言ったかと思ったらそれかよ!!」
「痛い、サスケ」
「どれだけ俺が骨おったかと思ってンだ?! 水月や重吾にはからかわれるし、変な噂は立つし!!」
「・・・だ、だがな、サスケ」
「はっきりしろ!」
 漫才のような遣り取りが目の前で繰り広げられる。あたしははじめ呆気に取られていたが・・・なんだか、最初のイメージからかけ離れて、そう、いい意味で。思わず笑った。
「ん、いいってばよ? 友達になろうってば」


 友達付き合いと称して始った、彼・・・うちはイタチとの交流は、やがてあたしにとって掛け替えの無い位置に収まり、あたしが高校を卒業して就職した頃に、プロポーズされた。あたしの誕生日に贈られた銀の指輪。朝日にかざした手のひらは、不思議なコントラストを描いてあたしの目を射る。
 そのかざした手を取る者がいた。あたしはその手の持ち主へと視線を向ける。
「おはようってばよ!」
「おはよう、ナルト」


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