イタナルコ編

□無敵の彼女(〜ブルーフォックス〜)
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「しっかた、無いってばねぇ……」
 痩身の小さな身体を包み込むように抱き込むと、イタチは初め身体を強張らせて固まったが、やがてそろそろとナルコの背に腕を回す。
 トクン、トクンと鼓動が耳朶を打つ。優しい命の音だった。再びイタチの目尻から涙がこぼれ落ちる。見つめ続けた光が、こんなにも近い。
「……今日は、やめとく。イタチが学校行っている間にするってば」
 理由が判らないながらも、イタチが現在非常に情緒不安定な状態であることは判った。ナルコは抱き込んだまま、背を静かに叩く。
「……ナルコ、姉…さん。夢、何?」
「あたしの取り敢えずの夢は、大学を無事卒業して立派な社会人に成ることだってば」
「……取り合えず?」
「そ。自分の力で生活が出来るようになる。それが基本。今はじいちゃんの遺産の一部を使っているわけだから、完全に自分一人の力で生活しているとは言えないんだってば。かといって、自分にコレといった特技があるわけではないし、あたしが出来る事は就職には全然役に立たないものばかりだし。だから、いろんなバイトをしたり、勉強したりして、将来何を一生を通しての仕事にするかを探している途中なんだってば。自分に何が向いていて、何が不向きかなんて、まだまだ判らない状態だから、興味のあるジャンルはかたっぱしから足掛かりになりそうな資格や技術を身につけるようにしてる。……教職もその一つだってば」
「…………」
「でも、一番叶えたい願いっていうのも、あるってばよ?」
「夢じゃなくて、叶えたいもの?」
「そ。……恥ずかしいから、それだけは秘密、ね」
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