イタナルコ編

□無敵の彼女(〜ブルーフォックス〜)
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 このまま玄関先で問答続けるのもあれだと思い、家に上げる。
「荷物はそれだけ?」
「はい」
 亡くなった祖父、筆名自来也は、売れっ子の官能小説専門の作家だった。この家の維持費や年間に掛かる様々な税金は、膨大な量を誇る自来也の著作の印税で支えられている。 だからこそ、日々の細かな生活費はバイトで稼いでいた。学費やその他大きな額のものの時だけ銀行に預けている遺産の一部を遣わせて貰うが、減った分はコツコツ内職で足している。自来也の著作のうちの一つが映画化(成人指定)した時、記念に建てた別宅の内の一軒が現在ナルコが住む家で、そしてまた…自来也にとって終の住処ともなった。こじんまりとした規模の日本家屋だが、外観から想像するより多く部屋数がある。自来也が亡くなった後、管理できない他の家は弁護士と相談して売却し、その売上で葬儀やその他を清算した。残った額は多かったものの、それらは将来のために全て銀行に預けて、その殆どを定期に入れたために、ナルコの生活はかなり質素だ。
 ナルコはイタチと出会った最初の日に泊めた祖父の部屋ではなく、趣向の凝らした中庭が見える空き部屋へ案内した。ここは元々客間として使っていた部屋の一つで、生前自来也が彼の担当である編集者と相談したり時には缶詰となったりした時に利用していた部屋でもある。そのため、他の空き部屋と比べてまだ色々と家具が置いてある。座り机であるが設置されているし、置いてある書棚は辞書の類も充実している。布団も押入れに一組入っていた。
「この部屋をイタチにあげるってば。布団もそこの押入れに入っているから自由に使って。それから…招いた時のあたしの表現が不味かったのよね? じいちゃんのエロ小説を思い出してゲンナリしちゃったってばよ。うん、あたしが悪かったんだってば。だからこれからは、ペットじゃあ無くって、弟だってば。イタチ、きみが立派な社会人になるまで、あたしがイタチの保護者になる」
「……弟?」
「そ。ペットから昇格して、イタチとあたしは義兄弟だってばよ。あたしと二人で家族ゴッコをしよう。……それともこんなの嫌、だってば?」
 ナルコに悲しそうに問われて、イタチは慌てて首を横に振る。
「嫌じゃない」
 その返答にナルコは安堵したように笑った。
「良かった! ……じゃあ、今後の憂いを無くすため、仕上げといきますか」
 イタチは意味が判らず首を傾げた。
「……その様子じゃ、気づいて無かったみたいだってばね?」
 ナルコは戸惑った表情を浮かべるイタチに苦笑する。
「未成年の売春って、裏に暴力団が絡んでいる場合が多いんだってば。……まぁ、イタチは男で、客は男色家と極少数。誰かに囲われて売春させられていたわけでは無かったし、圧倒的に多い少女の売春よりは目立って無かったかも知れないけれど……。その極上の容姿に通っていた客の質。事情通のあたしの友人たちが団結して動いたってことは、かなりヤバめだったってことだってば。あの界隈を取り仕切っているボスに会ってくるってばよ。ボスさえ攻略すれば、下が騒ごうと誰もイタチに手は出せないってば。普通の学生に戻れるってばよ?」
 ナルコの言葉に、イタチは安易に考えていた今までの行動に対し、血の気が引く。その反応を見て、茶目っ気たっぷりに笑うと、釘を差した。
「性に纏わる商売や金融業は、裏に暴力団が係わっていることが多いんだってばよ。……シマを荒らされれば、容赦無い報復が当たり前の闇の世界だってば。下手すると海にコンクリで浮かぶ事になるってばよ? ちゃーんと、ハナシを通してそっちの方も片つけなくちゃってば」
「…………」
 絶句するイタチの頭をくしゃりと撫でると笑った。
「売春はイイコト無いってばよ? 不特定多数の他人と交われば、相手の持つ病も貰う確率だって高くなる。梅毒なんか深刻だってば。……アソコが溶け崩れて不能になる可能性だって高い。生殖機能は子供を作るためにあって、遊びで快楽を求めるために頻繁に使う機能じゃない。男性が相手を受け入れる際に使う場所だって、本来の使われ方とは異なるから、痔に成るくらいはまだマシで、下手すると腸が破れて膿んだりして悲惨だ。……酷使すりゃ、簡単に身体にガタが来る。人に言えないような様々な病を患いやすくなるってばよ? だから、約束して。大好きで生涯を通して添い遂げると決めた相手が見つかるまで、性行為を軽んじないでってば。学生の本分を満喫すること。……学ぶことは無駄じゃ無いんだってばよ。勉強が全てではないけど、学校ってそれだけじゃ無いってばよ? あたしは用意して出掛けてくるから、ここで待っててってば」
 ナルコは与えた部屋にイタチを置いて自分の部屋へ向かう。と、バタバタと足音が追ってくると、引き止めるように腕を捕らえた
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