イタナルコ編

□無敵の彼女(〜ブルーフォックス〜)
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 大学に通う毎日は、それはそれで楽しかった。
 自分の夢を叶えるための知識とそれを形にするための技術の習得。級友にも恵まれ、充実している筈だが……何処か物足りない。
 自分の夢を叶えるために選んだ大学なのだからと、学費を稼ぐために色々バイトもしていた。毎日忙しい筈だし、覚えることが増えるたびに、満足感で満たされるが、ふとした拍子に、足らないものを自覚する。
(何だろう……何が足らない?)
 何が自分に足らないのか判らなくて首を傾げた。そんなある日の事。バイト帰りに通りかかった繁華街で、ぼんやり裏路地に座り込んだ、ドロドロに汚れた恰好をしている少年を見つけた。
 破けた服やボサボサに荒れた髪。元の姿が不明なほど凄まじい。歳は十三程で……この年齢で浮浪者となったとしたら、何が原因だろうか。家族は? 友達は? ……みんな居るとしたら心配しているだろうに。
 そんな事を思いながら、つい声をかけてしまったのは、本当に気まぐれだった。
「……捨てられた子猫みたいだってばよ? きみ」
 俯いて座り込んでいたその子供は、のろのろとした様子で顔を上げた。汚れた風体と、それに伴う悪臭が凄まじかったが、ボサボサの髪の間から覗く黒目がちの瞳はとても綺麗で、思わず見惚れる。その子供は、驚いたように目を見開いて、じっと声をかけてきた主…うずまきナルコを見つめた。
「まだ、中坊だろ? 家族が居るなら帰れってば。……家族は失ってから後悔しても知らないってばよ」
 その子供は、一度瞬きして、問うような眼差しを向ける。ナルコはそれを正確に理解して苦笑した。
「あたし? ……ん……。両親に関してはノープロブレムだってば。その後保護者になってくれたじっちゃんも、かな? だから、すんごく、家族に夢持っているかもしんない。でも、何があろうとも、どういう状況だろうとも、叶えたいモン抱えてるなら諦めては駄目だってばよ! 我武者羅に頑張れば、道は目の前に出来るもんだってば。あたしの様に天涯孤独のモンだって、その結果、どうにか大学通うまでこぎ着けたんだから」
 家族のくだりで瞳が揺れたのを見たナルコは、この目の前の少年の家族が健在なのを知る。が……どうやら、なんらかの事情で帰りたく無いようだった。だから、冗談で言ったのだ。
「家族が居るなら、父ちゃんと母ちゃんの所へ帰れってば。……でも、帰りたく無いってどうしても思うんなら、帰る気になるまで、あたしのペットとして、拾って帰るけど、どうする?」
 少し屈んで、笑みを浮かべたまま、ひょいと片手を差し出した。
 それが、出会い。
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