■天上の海・掌中の星 3

□冒険は、でも ナイショ?
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    ◇◇



お盆だからといって
家人が戻って来る家でもなくて。
父上は、
今頃インド洋上の筈だし、
兄上は…
北アメリカ大陸のどっからしく。

 『夏休みの間は
  あちこちの岩山に登って
  修行してっから。』

 『でも、確か
  アーチェリーで
  留学してんだよな?』

弓矢かついで
自給自足の旅だろかと、
ゾロやサンジが
怪訝そうな顔になったのへは、

 『弓矢は使わねぇけど、
  ヒッチハイクとかも
  やんねぇんだって。
  ユース何とかいう
  宿泊所もないところが多いって。』

だから、
飯は缶詰開けたり
魚釣ったりしてるって
聞いたぞと。
途轍もないワイルドライフ中
らしいことを、
あっけらかんと
口にする弟さんであったりし。

 『…まあ、
  あの兄ちゃんなら
  それもアリかもな。』

精霊の気配には
聡いお人だったから
御加護も多かろし、
それ以上に…初対面のおりには、
こちらの守護二人の
気配の大きさを見抜きながら、
それでも敢然と立ち向かいかかった
お人だったの思い出し、
大妖でも出て来ないかぎり、
災厄は向こうから
逃げてくだろうとは、
聖封様からのお墨付き。

  なので。

 「あっちぃ〜〜〜〜。」

近年では
そうそう珍しくもなかろう、
盆の前後は暇だという
条項がくっつくその上へ、
連日連日、
飽きもせずの猛暑続きの日々
とあっては。
さしものお元気坊やも、
ややもすれば音を上げ気味。

 「? プールには
  行かんのか?」

休み前から、
まるで日課ででもあるかのように、
毎日どこかのプールへ
通ってたのにと。
体操終えて戻って来、
お腹いっぱいご飯食べて
…そのまま意気が萎えたらしき
坊やなのへ、
こちらは物干しから
戻って来たゾロが
“おやまあ”と
目を見張りつつも訊けば、

 「ガッコのは
  監督する大人が
  いねぇからって、
  新学期の直前まで
  閉まってるし。」

市民プールとかも
盆の間はバイトの監視員が
確保出来ないとかで
休みなんだって…と。
そういう情報は
しっかり把握している
今時さ加減よ。
(昔は、
 そうと知らずに出掛けてって、
 入り口閉まってるのを見て
 初めて知るパターンが、
 当たり前でしたからねぇ…。)

 「う〜〜、暑いし暇だ〜〜〜。」

あまりの暑さから、
今年も柔道部の合宿は
なかったようで。
部外の友達はと言えば、
親御と帰省してたり
とっくにどこかへ
旅行に発ってたり、
皆さん、なかなかに
計画性のある夏を
送っておいでなようで。

 “つか、
  40日全部がびっしりと
  予定で埋まるはずも
  ないってな。”

暇じゃ暇じゃと唸ってる
こちらの坊ちゃんも、
先週までは
高校総体に出掛けていたのだし、
その直前までは
プール三昧でもあったわけで。
結構どころじゃあなくの、
密度の濃い夏を過ごしておいでで。
それがパタッと、
いきなり暇になっただけのこと。
確か盆開けには
登校日もあったはずだし、
川沿いの花火大会も残ってる…

 “…と、
  カレンダーに書いたのも
  本人のはずだのにな。”

ほんの目先の
イベントがないないと、
駄々こねしているところは、
もっとずっと幼い子供のようで。
元気の証しと
案じることもないまま、
しばらくはクールダウンしてなと、
それにしては
甘やかな苦笑を残して、
緑頭の破邪様、
余裕でキッチンへ去ってった
……のだが。

 《 …フィ、ルフィ。》

 「…………んや?」

どこからか微かに、
呼びかけられたような気配がして。
クッションを抱えて
ごろんちょと
ソファーに転がってた坊や、
あれれぇ?と
身を起こして周囲を見回すと、

 《 ルフィ、
  遊びに行かないか?》

 「あ、チョッパーか?」

あえて方向を言えば頭の上か。
どうやらすぐ間近の
亜空まで来ていての
呼びかけらしく、
声と口調からして、
あの聖封さんところの
精霊獣の
トナカイさんであるらしい。

 《 聖世界の
  涼しいトコ知ってるんだ。》

 「え?え? ホントかvv」

そういえば、
彼はトナカイの精霊であり、
そのせいか
暑いのには弱かったようで。

 《 ホントは
  そうそう誰でも
  入っていいとこじゃ
  ないんだけど、
  ドクトリーヌが、
  あ、くれはさんの
  ことだけどもサ。
  あのお元気ボーイだったら
  呼んでいいってvv》

 「くれはって、
  ああ、あの元気な婆さんかvv」

 《 ………おお、
  そそそそ、そうだ、うん。》

チョッパーをはじめとする、
天世界の聖獣を統べる長にして、
南の天炎宮を預かる天使長様。
極寒の天巌宮を預かる
ゼフ様と同輩の、
つまりは途轍もない
キャリアを持っておいでの
女傑を捕まえて、

 “ば、婆さんなんて
  呼んじゃうんだもんなぁ…。”

そういや初対面の頃から
それを改めないルフィだが、
くれはさんの方でも、
特に怒りはしないで
おいでなような。

 “やっぱ大物なんだ、
  ルフィってvv”

小さな蹄を口許に、
くふふと笑いつつ、
もう片やのお手々で
宙へ四角を描いて扉を開き、

 「さ、行こうvv」
 「おおっvv」

ぴょいっと飛びついたそのまま、
肩車してもらった
トナカイさんの指さす方へ、
何もない空間へ、
恐れもなく踏み出したルフィが
ふしゅんと消えた後へは、
ひらんと一枚のお手紙が宙を舞い、
ローテーブルの上へ
上手に落ち着いたのだけれども。

 ―― お元気ボーイは
    預かったよ、くれは

……くれはさんて、
山賊属性でしたっけ?
こんな文面では
誤解を生まないかが心配です。
(苦笑)



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