■天上の海・掌中の星 3

□例えばこんな応用篇?
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   ◇◇



 何か話がいきなりの大暴投してしまったようでしたが。要は、中間テストが始まったんで ゆーーつだなぁと、当家の坊やが ブルーどころかグレーになりかかっておりまして。せっかく世間様は新緑の季節なんだのに、教科書暗記して、苦手な数学と向かい合ってしなきゃいけないんだろと、ふわふかな頬をむむうと膨らませておいでの、まったく進歩のない坊やだったりし。

 「得意な分野も
  なくはねぇけどよ。」

 「ほほぉ?」

 「でも中間 (考査)だと
  そっちは出番ないし。」

  “そうか、
   保健体育とか家庭科とか。”

  “それか、
   芸術選択教科とかだな。”

 いつの間にか、すっかりと事情通になってしまってます、破邪様&聖封様。(笑) 年号だの化学式だの、暗記で済みそうなものは何とかなるが、

 「数学は
  ホンットに意味判んね。
  顔文字の
  ビックリ・ハッて記号が
  ついてるのとかさ。」

 「???」
 「……も、もしかして
  “Σ”かな?」

 そうそうそれそれ、何だそう読むんだアレと、後ろ向きにならず“あはは”と笑う豪傑なところは変わらないのが、今回ばかりは ちょっとは救いなのかも知れず。

 「数学は特に苦手なのか?」

 「おお、教科書見てるだけで
  眠くなるし。」

 「“読む”じゃない時点で
  向かい合い方が違うぞ、お前。」

 目許が座ったサンジと違い、こちらさんはさすがに慣れたか、洗濯機が終わったぞ干しに来いやと、電子音を立てたのに気づいたゾロが立って行くのを見送りつつ、

 「読書自体からして
  苦手だろ、お前。」

 そこから入らんといかんのじゃないかと、器用そうな手で口許を覆い、たばこに火を点けたサンジだったのへ、

 「そこまで
  ひどくねぇもん。」

 ルフィが“ぷんぷくぷー”と頬を膨らます。

  そか? 例えば?
   どんな本なら平気だ?

  う〜っと ○ャンプとか、

  おいおい
  それは畑が違いすぎだろ…

 …などという会話を遠くに聞いて、焦ってた割には ほのぼのしてんよなと小さく微笑ったゾロだったが、


  後日、ちゃんと傍にいなかったことを、
  ひどく後悔することとなろうとは。
  (なろうとは なろうとは
   なろうとは…………)エコー


 よほどに嫌いか、腕を目一杯伸ばし、自分から遠ざけるような開き方をする様子へ、呆れてばかりいる場合じゃなさそうかもと。放っておけぬと思い立ったサンジとしては、

 「だったら、
  こんな本と“置き換え”て
  みるのはどうだ?」

 「置き換え?」


 ニンジンが嫌いな子へは、タマネギと一緒にみじん切りにして豚ひき肉と混ぜ、団子にして揚げてから、照り焼き風味のあんで煮込んでやればいい。騙し討ち? そんなんじゃねぇさ、栄養が偏っちゃあいけないって思っただけのこと。温野菜やグラッセじゃあ近寄りもしねぇくせに、肉やハンバーグ、ハムっぽいものなら、味はイマイチでもとりあえず喰うってんなら、それへ似せたり混ぜたりするっきゃねぇだろが。

 「そんでだな。」

 サンジがひょいっと宙から取り出したのは、表紙にそれは美味しそうな、揚げたてチキンバスケットの写真がでかでかと飾られた、『今日の献立101選』という、A4サイズの料理本。おおおと さっそくにもルフィの表情が笑顔に明るく塗り潰されたのへ、

 「写真が多い分、
  そっちの数学の
  教科書とやらより
  字が小さいが。
  試しに、
  そうさな…このページを
  読んでみな。」

 「うっとぉ。」

   〜〜〜〜〜。

 音読しろと言ってはないため視線だけで字面を追ってたルフィが。やがてお顔を上げると、

 「そっかぁ。
  これって蜂蜜を隠し味に
  入れてんだ。」

 「一番小さい字で
  付け足されたアドバイスまで、
  読み切れた訳だな。」

 うんと素直に頷いたルフィさんだが、そんなお顔の前へさっきの数学の教科書を開いて見せると、途端に……何が眩しいものか、やたら視線が泳ぎ始める始末で。

 「お前、
  さては邪妖なんじゃね?」

 「それをサンジが言うと
  自爆ネタにならね?」

 おお、おお、いい度胸だの、そういう理屈まで習得したんかこの霊感少年はよと。一応はの でこぴん繰り出し、お仕置きしてから…さて。

 「痛ってぇ〜〜〜〜〜っ。」
 「黙れ、クソ生徒。」

 にゃあにゃあ騒ぐところへ びしぃっと立てた人差し指にて制止のお声をかけてから、



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